アノミー理論

「ナナメの連帯」が終わりなき不安を生み出し、仲間を見つけ出せない状況をつくりだしていることを説明しました。

そしてそのような状況は「アノミー」をつくりだすのです。アノミーとはなんでしょうか?

アノミーとは?

アノミーはフランス社会学者の始祖エミール・デュルケームが提唱した概念で、日本では「無規範」と訳されることが多いのですが「無連帯」と訳すほうが意味が伝わりやすいでしょう。

エミール・デュルケームは、こんなことをいっています。

デュルケーム
デュルケーム

連帯の中にいなければ、人間は人間としての生活を営めない。連帯こそ人間生活の基礎だ。連帯から外されると、人間は身の置き場がなくなってしまい、混乱の極みに達する。それがアノミーだ。

デュルケームがアノミーを発見したのは自殺の研究がきっかけでした。

景気が悪い時に自殺が増加するのは誰でも想像がつきます。しかしデュルケームは、景気が急上昇するタイミングでも自殺者が増加することに気づいたのです。

思いがけない発見をしたデュルケームはこう説明します。

デュルケーム
デュルケーム

経済が繁栄すると成金が出現し、生活水準が飛躍的に向上する人が増える。貧乏からお金持ちへ。めでたしめでたし、と思うなかれ。急に生活水準が向上することは、急に貧乏になったのと同様に当事者にとっては耐え難いことなのだ。

デュルケーム
デュルケーム

なぜならばお金持ちになれば、お金持ちの仲間に入っていかねばならない。ところがそうなると生活様式その他のルールが変わってくる。しかしルールがどのように異なるのか?ということはお金持ちになってはじめてわかることなので、お金持ちのルールを目の当たりにすると戸惑ってしまうのだ。

デュルケーム
デュルケーム

新しい環境に溶け込めず、誰にも相手にされず、連帯がなくなってしまう状況は、人々に激しい心理的な緊張を生み出す。

そして激しい心理的な緊張に耐えられなくなった人は、さんざん苦しんだ末に、精神病、破壊行動に及び、さらに自殺に追い込まれてしまう。

例えば泊まるホテルといえばビジネスホテルが当たり前という人が、ある日を境に高級ホテルに泊まることになったら「快適でいいね」というよりも「居心地が悪い」と感じるのではないでしょうか?

高級ホテルならチェックアウトすれば居心地の悪さを感じなくて済みますが、もしそういったことから逃げられなかったらどうでしょうか?

連帯の破壊は進行中

ちなみにわたしがよく出没する東京港区の麻布十番(六本木駅の一駅となり)も連帯の破壊は進行しています。2010年ほどまではボロボロのお店の1階で、腰の曲がった高齢の店主が焼き鳥をつくって販売している昭和の光景が残っていたのですが、いまではそのような光景は完全になくなりました。

唯一、昭和の時代をそのまま残したようなエリアもあったのですが、再開発でタワーマンションが建設されるそうです。土地を提供する住人はおそらくタワーマンションに移住するか、まとまったお金を手にするかの2択を迫られるでしょうが、それで幸せになれる保証はありません。

たとえば東京都は1970年代中頃に、古い都営住宅を取り壊して高層住宅を建てようとしたのですが、住民の猛反対にあったそうです。

古い都営住宅を取り壊して新しい鉄筋コンクリート住宅に移せば住民は喜ぶに違いないし、高層住宅にすればいままでの住民を全て新しい住宅に移しても部屋の数には余裕があります。東京都の担当者はいいアイディアだと考えたのですが、実際は住民の大反対にあってしまったのです。

調査した結果わかったことは、住民はご近所同士の連帯がなくなることを恐れたのでした。高層マンションになると、ご飯がないとき、おひつ(炊き上がった飯を釜から移し入れて置く為の箱のこと)を借りられないし、おかずをあげたり貰ったりもできないということに耐えられそうもないと、住民は主張したそうです。

その当時の日本人は、人間は連帯がなければアノミーに陥り、生きていけないことを本能的に知っていたのかもしれません。

精神病者のごとく

デュルケームの発見したアノミーを単純アノミーと呼ぶなら、日本の「ナナメの連帯」から発生する無連帯によるアノミーは、「ナナメの連帯」が構造的なものである以上「構造的アノミー」というべきものです。

アノミーの原因が構造的なものである以上、個人がどうであろうとアノミーは不断に生み出され続け、アノミーが次なるアノミーを拡大生産していきます。すなわち誰もが連帯を求めて、宗教団体やオンラインサロンに入りたがるようになるのです。

100万円もする壺を買ってでも宗教団体に所属したがるのも、お金を出してオンラインサロンに入りたがるのも、アノミーがそれほど恐ろしいことの裏返しでもあります。

そしてアノミー状態は人格の統一性を解体させるので、「精神病者のように見える」ほど人を苦しめ、当事者を暴力に駆り立てるのです。

しかしここで重要なことは「精神病者のように見える」だけで、精神そのものはまったく正常だということです。たとえば映画「スパイの妻」に登場するサトコ(役:蒼井優)がそうでした。

スパイの妻 ~ 既に日本は廃墟である

ですからアノミー状態の人間が、学校や家庭で暴力をふるったところで、「病院」は暴力をふるう人間を「治療」できないのです。なぜならばアノミーは社会の病気であって、個人の精神の病気ではないからです。

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