ナナメの階層は無限に細分化し、人々に「終わりなき不安」をもたらすことを説明しました。しかしナナメの階層がもたらす問題は、他にもあるのです。
団結できない問題
資本主義を研究したカール・マルクスの「世界の労働者よ、団結せよ」という言葉はあまりにも有名です。搾取をほしいままにする資本家に対抗するために、労働者の結束を呼びかけたのです。
しかし「世界の労働者よ、団結せよ」が通用するためには「資本家」と「労働者」という区別が必要です。なぜならばどこまでが「資本家」で、どこからが「労働者」であるかが明白でなければ、階層ごとに団結することができないからです。
そう考えると「ナナメの階層」が当たり前の日本人は、団結できないことがわかるのではないでしょうか?
たとえば『日本労働総連合会』という組織があります。「すべての労働者のために」という理念を掲げています。しかし『すべての労働者』といったところで、トップの座に零細下請け企業の労働組合出身者が座ったという話は、聞いたことがありません。
また『労働者』といったところで、「正社員」・「非正規社員」・「外国からの労働者」といった様々な労働者がいる時代では、労働者同士の利害が対立することも珍しくありません。
「すべての労働者」は団結できるのでしょうか?この問いに、日本社会はまだ答えを出せていません。
上流の役割を果たせない問題
ここで重要なポイントは「ナナメの階層」は、下の階層から上の階層までずっと続いているということです。ですから「団結しづらく地位が不安定」という問題は、下流国民だけでなく上流国民にも当てはまるのです。
そして上級国民の地位が不安定な日本の状況は、世界でも珍しいのです。例えばイギリスの貴族は一番上からデューク(公爵)、マーキス(侯爵)、アール(伯爵)、バイカウント(子爵)、バロン(男爵)と続き、これら貴族の下にバロネット(準男爵)があるといった具合に、地位が明確に決められています。
また英語といっても庶民のイギリス人と貴族のイギリス人が話す英語では、イントネーションも異なっています。つまり話す言葉を聞くだけで、貴族と平民の見分けがつくので、仲間同士で団結しやすいのです。
以上のような事情があるため、貴族は安定した地位が保たれており、貴族同士は社会から絶大なる特権を与えられていることもあって、固く結束できるのです。そしてこの結束から生まれるものが、いわゆる「ノブレス・オブリージュ」です。
「ノブレス・オブリージュ」は、第二次世界大戦の様子を描いた映画『ダンケルク』にも描かれています。1940年の夏にヒトラーの攻撃によってイギリスの運命が風前の灯となった時に、命を投げだしたのは主に貴族層であり、平民ではありませんでした。
また珊瑚海、ミッドウェー、南太平洋などの大海戦において命を投げ打ったアメリカ航空兵の階級は、少佐が圧倒的に多く、中佐(少佐の一つ上)もたまにいて、最低でも大尉(少佐の一つ下)です。
少佐といえば、日本の警察庁でいえば警視・警部くらいの階級で、警察署でいえば副署長くらいの階級です。つまり欧米には、せめてこれくらいの階級にならないと国家の運命を任せられないという感覚があるのです。
その一方で、アメリカと戦った日本航空兵の死者のほとんどが下士官(かしかん)でした。日本には社会の維持に重要な役割を果たす「ノブレス・オブリージュ」というものがほとんど見られないのです。
以上、「ナナメの階層」の日本では、下から上まで連帯することができず、国家存亡の時ですら「ノブレス・オブリージュ」が働かないことを説明してきました。
次回は、連帯できないことの深刻な悪影響について解説します。
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