自分が嫌いの呪縛

【はじめに】

「自分のことが好きですか?」と質問されたら、「好きではない」とか「自分なんか誰からも好きになってもらえない」と考える人は多いようです。むしろ「自分が嫌い」という人も珍しくありません。

もちろん「自分のことが大好き」とハッキリ断言できる人に出会うことは、ほとんどありません。自分のことを好きとは思えなくなった理由を質問すると、答えは人それぞれ異なります。

たとえば、親からひどい扱いをされて育ったからとか、いじめを含む思春期の被害体験、失恋、受験の失敗、就活での挫折、勤め先でのトラブル、容姿や体型のコンプレックスなど、さまざまな「自分が嫌い」な理由が挙げられます。

あなたが今抱えている「自分が嫌い」の原因を、過去に経験したことや、持って生まれてきた才能や外見などに求めることが当然のことのように思われているのは、そのような考え方を支持する心理学や精神分析があるからです。

悪いのは過去のトラウマや生まれもった才能や外見なのであって、「あなたのせいではない」といってくれる心理学や精神分析は、あなたに救いをもたらしてくれるでしょう。

しかし残念ながら・・・その救いは長続きしません。なぜならば現在あなたが抱えている問題が解決するわけではないからです。わたしたちは「自分が嫌い」という感情と、どのように向き合えばよいのでしょうか?

実は・・・「自分が嫌い」な人は、自分を好きになろうとしてはいけないのです。

その理由を、「自分が嫌いなのはなぜなのか?」、「自分が嫌いなのは悪いことなのか?」、「自分が嫌いな人がやりがちな間違い」、「自分が嫌いな人はどうすればよいか?」といったテーマに沿って説明します。是非、最後までお付き合いだください!

自傷的自己愛

そもそもなぜ「自分が嫌い」になるのでしょうか?

ほとんどの人は「自分が嫌い」な原因を探して、その原因を取り除こうとします。たとえば自分が嫌いな原因が、「貧乏」や「孤独」である場合、なんとかして「お金」や「恋人」を手に入れようとします。

しかし残念ながら・・・「お金」や「恋人」を手に入れたところで、「自分が嫌い」は克服できないのです。なぜでしょうか?

精神科医の斎藤環(さいとうたまき)氏は、「自分が嫌い」の原因が「自己愛」であることを喝破しました。そして自分を傷つける自己愛の働きを『自傷的自己愛』と命名しました。(参考書籍:自傷的自己愛の精神分析

つまり「自分が嫌い」な根本原因は自己愛のメカニズムにあるのですから、「お金」や「恋人」を手に入れたところで、「自分嫌い」が解消するとは限らないのです。事実、成功者やセレブであっても「自信がない人」は珍しくありません。

とはいえ『自傷的自己愛』といわれても、ピンとこない人も多いでしょうから、リストカットを含む自傷行為と比較しながらわかりやすく解説したいと思います。

実は・・・自傷行為は死に至る行為ではありますが、自殺を目的としているわけではありません。自殺が「死ぬための行為」だとすると、自傷はむしろ「生きるための行為」なのです。(参考記事:日本財団ジャーナル

自傷経験者はしばしば「切るとすっきりする」と言いますが、自傷には不安やイライラ、緊張などを解放するためのガス抜き的な効果があることがわかっています。自傷の瞬間には、エンケファリンと呼ばれる脳内麻薬が分泌され、心の苦痛がやわらぐのです。

また自傷行為は、心の苦痛をやわらげるだけでなく、周囲に自分の苦しい状況をアピールするための援助希求行動という意味合いもあります。(但し、自傷行為を繰り返すうちに、周囲も無関心になって孤立し、その苦痛をやわらげるために、さらに自傷を繰り返すリスクもある)

さて・・・勘のいいあなたならもうお気づきかもしれませんが、「自分が嫌い」という言葉は、「言葉による自傷行為」なのです。

自尊心メーター

自傷経験者は自分のカラダを『ナイフ』で傷つける一方で、「自分が嫌い」な人は自分のメンタルを『言葉』で傷つけているのです。言葉の破壊力を軽視できないことは、以下の動画をみればわかります。

お客さん(おじいさん)がアイスを注文→機械故障で提供できません→(お客さんが)貼り紙を貼ってくださいと要望→店員ブチ切れ・・・という経緯のようなのですが、なぜ店員はブチ切れたのでしょうか?

社会心理学では、わたしたちは固有の「自尊心メーター」をもっていると考えます。このメーターの針が上がると幸福感を覚え、針が下がるとものすごい音でアラーム(危険信号)が鳴ります。

ようするに、マクドナルド店員の「アイスは、機械の故障で提供できません」という態度は、お客さん(おじいさん)の自尊心を傷つけたのです。だから「アイスを注文した自分は悪くない」と感じたお客さんは「貼り紙を貼ってください」と要望したのです。

またその一方で、お客さんの「貼り紙を貼ってください」という言葉は、マクドナルド店員の自尊心を傷つけたのです。だから「アイスを提供できないのは自分の責任ではない」と感じたマクドナルドの店員は、気分を害してしまったのです。

もちろんマクドナルド店員から「アイスは、機械の故障で提供できません」と接客されたら、お客さん(おじいさん)は「ああ、そうですか」と反応すればよかったし、お客さんから「貼り紙を貼ってください」といわれたら、マクドナルドの店員は「申し訳ございません」と回答すればよかったのです。

しかしわたしたちは、自尊心が下がることを殴られたり蹴られたりするのと同じように感じてしまうのです。

脳は感覚器官からの入力を処理するだけなので、ナイフで刺されることと、面と向かって批判されることを区別できないのです。だから言葉で他人の自尊心を傷つければ、悪気がなかったとしても、逆恨みされてしまう可能性だってあるのです。

たとえば第96回アカデミー賞(2024)で最多7冠を達成した映画「オッペンハイマー」の主人公も、言葉で他人の尊厳を傷つけた結果、有力者から恨まれて報復され危機に陥ります。

かつて日本のヤクザは「メンツ(面子)」で生きているといわれていましたが、一般人にとってもメンツはとても重要なのです。たとえば職場でたくさんの同僚の面前で叱責されたり、SNSで炎上して心ないコメントをもらったりすれば、殴られたり蹴られたりしているわけでもないのに、傷ついてしまうのです。

正気の証明

ここまで説明すれば・・・「自分が嫌い」という言葉で、自分で自分を傷つける理由の核心に迫ることができます。以下の動画を観ると、理解が深まるはずです。

「なぜ自殺したくなるんだ?」と問われた青年は、「人生には高い壁がありすぎて、思い通りにいかなくて、乗り越えられないと思ってしまう」と自分の状況を説明しています。

とはいえ冷静に考えてみれば、人生が思い通りにいく人なんてほんの一握りで、むしろ人生は思い通りにならないのが当たり前です。青年を苦しめているものの正体は、一体なんなのでしょうか?

フロイトやユングと並び、「心理学の三大巨頭」のひとりと称されているアルフレッド・アドラーの「すべての悩みは対人関係の悩みである」という言葉が参考になるはずです。

ズバリ青年は・・・「理想の自分」(願望)と「現実の自分」(期待)とのギャップに苦しんでいる・・・のではありません。他人から「理想が高すぎるんじゃないの?現実を直視すれば?」と指摘されて尊厳が傷つくことを、無意識に恐れているのです。

もちろん他人からストレートに批判されたり否定される可能性は、ほとんどありません。しかし「自分が嫌い」な人は、自分自身について、あるいは自分が周囲からどう思われるかについていつも考え続けてしまうので、「他人から自分を否定される可能性があるかもしれない」と考えるだけ不安になってしまうのです。

具体的には「もしかして自分は、自分自身すら客観視できていないバカなやつだと、他人から思われているのではないか?」と考えるだけで不安になってしまうのです。そして心配が不安や恐怖にまで昇華すると、自傷行為のリスクが高まっていくのです。

なぜ自傷行為のリスクが高まるのでしょうか?その理由はズバリ・・・自傷行為によって、現実の自分を客観視できていることについては自信があることを証明するためです。

同様に「自分が嫌い」な人も、他人の前で自己卑下を繰り返すことで「正気の証明」に挑むのです。なぜならば「自分はダメな人間かもしれないが、自分は自分を客観視できていることについては自信がある」ことをアピールできるからです。

正気の証明に成功すれば、他人から「理想的が高すぎるんじゃないの?現実を直視すれば?」と批判されるリスクに対して、事前に備えることができます。

仮に他人から「理想的が高すぎるんじゃないの?現実を直視すれば?」と批判されたとしても、「そうだね。わたしは自分自身ですら嫌いになってしまうほど、ダメな人間なんだ」と主張し、正気であることのアピールに成功すれば、他人からのそれ以上の批判をスルーできるのです。

期待水準と願望水準

「自分が嫌い」という言葉で自分で自分を傷つける理由について説明してきましたが、このタイミングで立ち止まって考えておきたいことがあります。そもそも・・・「自分が嫌い」であることは悪いことなのでしょうか?

「自分が嫌い」であることは、あなた自身を守るための防衛システム(つまり自己愛)が健康であることの証でもあります。ナイフによる自傷行為にせよ、言葉による自傷行為にせよ「生きるための行為」であることはすでに説明しました。

オタキングこと岡田斗司夫さんも同様の意見です。

そして「自分が嫌い」であることは、自己愛が健康であることの証であるだけでなく、期待水準は低くとも、願望水準は高いことの証でもあります。期待水準や願望水準とはなんでしょうか?

人の思いには、『期待水準』と『願望水準』の2つがあります。期待水準とは「自分が現実に期待できること」で、願望水準とは「自分が心の奥底で望んでいること」です。(参考書籍:14歳からの社会学

たとえば現実には「自分には恋人は期待できない」とか「自分のお金を稼ぐ能力は低い」考えていたとしても、「(やっぱり)自分は恋人がほしい」とか「(やっぱり)自分はお金持ちになりたい」いう願望を捨てきれない場合は、期待水準は低くとも願望水準は高い状態といえます。

自分が嫌いな状態つまり・・・期待水準が低くとも、願望水準が高いことは、悪いことなのでしょうか?願望水準が高いことは悪いことであるどころか、ある意味では望ましいことでもあります。なぜならば願望水準が高くなければ、恋人をつくろうとしたりお金を稼ごうとは思わないからです。

むしろ危惧すべきは、期待水準の低さにつられて願望水準が低くなってしまうことです。なぜならば願望水準が低くなると、『自分はこのままでいい』と考えるようになり、何かに挑戦しようとする意欲そのものが失われてしまうからです。(参考記事:東洋経済

メンタル疲労

「自分が嫌い」な状態は、「なんとかしたい」という願望の裏返しなので、ある意味では望ましいことです。「自分が嫌いなうちが花」という側面もあることは否定できません。

しかし「自分が嫌い」な状態を続けることは、当事者にとってはとてつもなくツライことなのです。

なぜならば「自分が嫌い」な人は、自分自身について、あるいは自分が周囲からどう思われるかについて、いつも考え続けているのですが・・・考え続けること自体がものすごく「疲れる」からです。

アメリカにおけるマイクロアグレッション(無意識の差別)の議論を紹介するとわかりやすいと思います。たとえば若い黒人男性がエレベーターに乗ろうとしたら、先に乗っていた白人女性が急に降りていった場面を想像してください。

はたして、白人女性はたんに用事を思い出しただけなのでしょうか?それとも黒人の男と密室で二人きりになるのがイヤだったのでしょうか?・・・などと考えてしまうのが、マイクロアグレッションの典型例です。

マイクロアグレッションによって、日常の些細なことに対して認知的な資源を費やしてしまうために、当事者はすっかり消耗してしまうのです。もうお気づきかもしれませんが、「自分が嫌い」な人も同様です。

「自分が嫌い」な人は、自分自身について、あるいは自分が周囲からどう思われるかについて、いつも考え続けているため、メンタルが消耗しやすいのです。事実、脳科学の研究においても、過去の後悔や将来の不安について考え続けていると、脳が疲れてしまうことがわかっているのだそうです。(参考:以下動画の10分29秒~)

そしてメンタルの消耗は、人間関係に重大な問題を引き起こすキッカケにもなるのです。

負のスパイラル

疲れている時に「一人にしてほしい」という気分になることは誰にでもあることですが、「自分が嫌い」な人は常日頃からメンタルが消耗しているため、周囲の人たちとの関係に、問題を抱えやすくなります。

たとえば浮かない顔をしているいるあなたをみて、周囲の人は心配します。そして周囲の人はあなたのネガティブな言葉を否定して、長所を指摘したり励ましたりしようとするのですが、残念ながら・・・「自分が嫌い」という自己否定の信念を、説得で覆すことはそう簡単なことではありません

あなたを心配している周囲の人は、何を言ってもあなたから反論されるので、次第に面倒になってあなたから距離を置くようになります。リストカットを含む自傷行為が一時的には周囲の注意を引きつけながらも、繰り返すうちにみんなあきれて離れていく構図と似ています。

そして「自分が嫌い」な人は、周囲の人が離れていく様子をみて「やっぱり、自分はダメなんだ」という信念をますます強化し、周囲の人を遠ざけ、孤立を深めてしまうのです。

孤立を深めると、生きるためのスキルを学習する機会を失います。なぜならば現代社会は、いろいろなことがインターネットで学習できる時代であることは確かですが、学習できないことだってたくさんあるからです。

わたしは新卒で外資系の経営コンサルティング会社に就職したのですが、学生時代に学んだあらゆることが通用しなかったため、上司や同僚からスキルを盗むしかありませんでした。

他にもスポーツ・格闘技・セックスなど、本を読んでも動画を観ても上達しないスキルはたくさんあります。残念ながら・・・この世には人からでないと学べないスキルがたくさんあるのです。

また孤立を深めると、自分の才能以上の成果を出すことが難しくなります。人にはそれぞれ得意・不得意があります。ですから不得意なことは他人にお願いして、自分は得意なことに集中することが、生産性を高める秘訣です。あのスティーブ・ジョブズだって、ひとりでiPhoneを生み出したわけではないのです。

よくある間違い

「自分が嫌い」という状態は、「自分の人生をなんとかしたい」という気持ちがあることの裏返しでもあるわけですが、「自分が嫌い」であり続けることはメンタル疲労の原因になり、対人関係を遠ざけてチャンスや大きな成果を遠ざける原因にもなります。

ですからもしあなたが「自分の人生をなんとかしたい」のであれば、「自分が嫌い」なうちに対処する必要があります。なぜならば「自分が嫌い」な状態が長引くと願望水準が低くなり、「自分はこのままでいい」と諦めてしまう可能性が高くなるからです。

とはいえ、どのようにして「自分が嫌い」と向き合えばよいのでしょうか?

わたしが観察するかぎり、ほとんどの場合、「自分が嫌い」の原因を探して、その原因を一つずつ解消しようとします。

異性・評判・お金を手に入れるために・・・ダイエット、筋トレ、自己啓発、語学、資格取得、スキルアップ、ファッション、美容、コミュニケーション力、趣味、SNS、映画、読書、旅行、仮想通貨、金融投資、副業、生成AIなどで、慌ただしく活動している人たちがたくさんいます。

「自分の人生をなんとかしたい」という気持ちが強ければ強いほど「やったほうがいいこと」のリストは膨れ上がり、一つでも多くの「やったほうがいいこと」を消化するためにコストパフォーマンス(以下、コスパ)やタイムパフォーマンス(以下、タイパ)を追求して、心休まることのない日常を過ごすハメになるのです。

たとえば本を読む時間がないほど忙しいビジネスマンは「本の要約サービス」を活用し、YouTubeやネットフリックスなどの動画は倍速視聴しているそうです。また驚くべきことに・・・小学生ですらタイパを意識する必要性に迫られているのです。(参考書籍:小学生のタイパUP勉強法

核心に迫る

もし「自分が嫌い」なあなたが人生にストレスを感じ、「やったほうがいいこと」に忙殺されて、メンタルも身体も疲れているのであれば、その理由はどこにあるのでしょうか?これまでの話を踏まえると・・・

【症状・原因・問題】

【症状】:メンタルの疲労、時間やお金の制約、突破口が見つからない
【原因】:原因追求型の思考
【問題】:戦略の欠如

「自分が嫌い」な状態を克服することに関していうと、2つの異なる考え方があります。1つ目は『原因追求型』です。2つ目は『戦略型』です。

原因追求型は・・・

【原因追求型】

「自分が嫌い」な原因を探して、「やったほうがいいこと」をTO DOリストに追加する。「自分がやりたいこと」を後回しにして、他人から言われた「やったほうがいいこと」を優先する。コスパとタイパを向上し続ける生活を続けているうちに、メンタルも身体もすっかり消耗する。過去の原因が現在の結果を生み、現在の原因が未来の結果につながると考えている。(過去⇒現在⇒未来)

戦略型は・・・

【戦略型】

最終目的をイメージすることからはじめる。最終目的を達成するための計画を立案する。「いつか、やったほうがいいこと」ではなく「今、やるべきこと」を優先する。常に「今わたしがすべきことは何か?」、「わたしがやりたいことは何か?」を問い続ける。悩んで立ち止まるのではなく、考えながら行動する。目指している未来が現在の行動を決め、現在の状況が過去の認識を決めると考える。(未来⇒現在⇒過去)

馬鹿げた話だと思うかもしれませんが、原因追求型の思考に慣れてしまうと「やったほうがいいこと」を探すのに忙しくなります。

なぜならば「やったほうがいいこと」を頑張れば頑張るほど、「自分が嫌い」な気持ちが強くなり、ますます「やったほうがいいこと」を探すハメになるからです。

なぜ「やったほうがいいこと」を頑張れば頑張るほど、「自分が嫌い」になるのでしょうか?

個性は人それぞれ

ドラえもんの登場人物、のび太君、ジャイアン、しずかちゃん、スネ夫、出木杉くんには、それぞれ個性があります。ですからより良い人生を送ろうと思ったら、やるべきことが異なるのは当然のことです。

たとえば・・・のび太君は公務員、ジャイアンは格闘技やスポーツ、しずかちゃんはピアノの先生、スネ夫はデザイナー、出木杉くんは研究者など、それぞれ異なる道に進む可能性が高いでしょう。

少なくとものび太君に、格闘技・スポーツ・ピアノ・デザイン・学問のすべてをマスターさせようとしても不可能であることは、あなたも同意してくれるはずです。

あなたは「当たり前じゃないか?」と思うでしょう。しかし実生活を観察すると、多くの人が他人と「同じこと」をやっています。典型例が「受験勉強」です。数多くの学生が、同級生よりも、ちょっとだけいい成績をとるために努力しています。

しかし・・・他の人よりも、より早く、より長く、より賢く勉強することが、幸せな人生につながっている保証はあるのでしょうか?

勝ち組も安心できない

残念ながら、あるタイミングで「勉強が嫌い」になる人は珍しくありません。また驚くべきことに・・・頑張って勉強して東京大学に入学したにもかかわらず、「東京大学なんて入るんじゃなかった!」と後悔している人だっているのです。(参考書籍:東大なんか入らなきゃよかった

ここまで説明すれば、「やったほうがいいこと」を頑張れば頑張るほど「自分が嫌い」になるメカニズムがわかるのではないでしょうか?

そう。「やったほうがいいこと」のほとんどは、「他人と同じことをやる」ことであり、「他人と同じことをやる」以上、必ずといっていいほど競争に巻き込まれてしまうのです。

もちろん競争すれば勝ち負けがハッキリします。負ければ当然、挫折感を味わうでしょう。だから多くの人は「勝てばいい」と考えます。ところが勝ったところで心の平穏は手に入らないのです。

なぜならば競争には終わりがないからです。負ければ「勝ち組になるために、次はもっと頑張れ!」と言われるし、勝ったところで「負け組にならないように、次も頑張れ!」と言われてしまうのです。

自己責任論

あなたが本当に何を望んでいるのかは、わたしにはわかりません。恋人と刺激的なデートをすることかもしれないし、結婚して家族団らんを楽しむこともしれないし、お金を手に入れて悠々自適な生活を送ることかもしれません。

わたしにわかることは、【原因追求型】の思考にハマってしまったがゆえに、必要以上に頑張りすぎてしまった結果、心も身体もすっかり消耗している人がたくさんいるということです。

これはあなたに問題があるというよりは、【原因追求型】の思考を正面から否定するのは、そう簡単なことではないからなのです。

【原因追求型】の思考は、言葉を変えれば、「現在のあなたが不幸なのは、過去に頑張らなかったから」(自己責任論)という考え方です。あくまでも過去に原因があり、現在はその結果であると考えるのです。

だからこそ、【原因追求型】にハマってしまった人は、「昔のあのときああすれば、現在は違ったものになったに違いない」などと悩んでしまい、後悔の沼から抜け出せなくなってしまうのです。

さて・・・過去に原因があり、現在はその結果である(つまり「過去⇒現在」の因果関係がすべて)という思考を、未来にまで延長するとどうなるでしょうか?

現在の行動が、未来に影響を与える(つまり「現在⇒未来」の因果関係がすべて)と考えるようになります。具体的には「いま頑張らなければ、将来は幸せになれない」(競争至上主義)と考えるようになります。

だからこそ、【原因追求型】にハマってしまった人は、「今頑張らないと、将来は大変なことになる」と考えて、現在の生活に焦りを感じたり、将来に不安を抱えてしまうのです。

つまり【原因追求型】にハマってしまっている人たちは、過去の後悔と、将来の不安のダブルパンチに苦しめられてしまうのです。

支配者の論理

【原因追求型】の論理は、権力者など一部の人たちにとっては、非常に都合のいい論理です。なぜならば「あなたが不幸なのだとすれば、それはあなたの過去が悪いから」と主張できるからです。

極論すれば、「親ガチャに当たらなかったのが悪いのだ」と主張することができます。親から受け継いだ遺伝子が悪い、実家が貧乏なの悪いなどといって、あなたが不幸な理由を説明してくれるでしょう。

そして一部の宗教は、「あなたが不幸なのだとすれば、あなたの前世の行いが悪い」などと主張し、どうすればよいのか?の問いに対しては、「現世が不幸であればあるほど、来世は幸せになれる」と主張することで、あなたを【原因追求型】の論理のなかに閉じ込めようとするのです。

もしかするとあなたは「原因追求型の考え方は、なんてバカらしいんだ!」と思うかもしれません。しかし勉強を頑張れば将来幸せになれると盲目的に信じている受験生は珍しくありません。また社会人になっても、現役時代に仕事を頑張れば、頑張った分だけ老後の生活が楽になると信じてる人も珍しくありません。

【原因追求型】の論理は、日本社会のシステム(たとえば雇用制度や年金制度)や宗教のなかに深く埋め込まれています。ですからわたしたちは、気づかないうちに【原因追求型】の論理のなかに閉じ込められてしまうのです。

もしあなたが日本社会や、あなたの人生に閉塞感のようなものを感じているのであれば、おそらくは【原因追求型】の論理を子どもの頃から刷り込まれているからです。はたして、突破口はどこにあるのでしょうか?

もしあなたの答えが【戦略型】の思考であるなら、わたしが時間をかけて本レポートを執筆した価値があります。

戦略型のススメ

戦略型の思考をする人たちは、あまり思い出したくない過去のトラウマや、うまくいかなかった原因について考えるのはほどほどにして、ドキドキ・ワクワクする未来の可能性について考えることにもっと多くの時間を使います。

さきほど紹介した脳科学者の毛内拡(もないひろむ)先生の動画のなかでも、脳の疲れを癒すにはドキドキ・ワクワクする情動が、とても効果的であることが語られています。(以下動画の11分55秒~)

ドキドキ・ワクワクする未来の可能性について考えるとは、どういうことなのでしょうか?

東京の虎ノ門に、『港屋』(みなとや)という、大繁盛していた蕎麦屋さんがありました。(漫画「島耕作」に登場していることでも有名。人気絶頂の2019年に閉店。)

『港屋』は、立ち食い、麵が固い、蕎麦にゴマやラー油が入っている、天かす無料、生卵1個無料、店内は薄暗い、という変わった蕎麦屋さんで、店主の菊池さんはいつも薄笑いを浮かべていました。

【冷たい肉そば】

港屋はどのようにして誕生したのでしょうか?

なんと・・・店主の菊地さんは「1年間スタジオにこもって考えた」そうです。

【事例:港屋】

自分はそば職人をやっていたという感覚はあまりありません。「菊地がそば屋を表現すると港屋だよ」という事だと思います。26歳で脱サラし、1年間スタジオにこもってましたね。ひとりで。どんな空間で? どんな食材で? 欲しい物はゼロベースで作り……という訳です。

同様の事例は他にもあります。ソフトバンク創業者の孫正義さんは、ソフトバンクを福岡で起業した最初の数年間は、営業活動など一切行わなかったそうです。

【事例:ソフトバンク】

朝の9時から夜中の2時まで事務所にこもり、まるでリサーチ会社のように、様々な資料に目を通し、弱者が確実に勝てる市場と長期的な戦略を練っていたそうで、売上が会社に全く入ってこないことを心配したソフトバンク従業員は、会社が潰れるのではないかと不安になったそうです。

さらに経営コンサルタントの大前研一さんの場合、若いころから週末の予定は2年後まで埋まっていたそうです。

【大前研一の金言】

仕事はもちろん大事だが、それよりも大事なのは自分の人生だ。会社のために身を粉にして働いたところで、会社が一生面倒を見てくれるわけではない。いまわの際に、『あれもできなかった』『これも叶わなかった』と後悔したくなければ、やりたいことを最優先してライフプランを立て、休日、夜、週末などはそのために使うことだ。

それから、『やりたいことは定年後の楽しみに取っておこう』などとは、ゆめゆめ思わないこと。私はこれまで1,000人を超える経営者と仕事をしてきたが、それができた人はまずいない。(中略)

自分の人生なのだ。やりたいことは全部やろう。そのために休みはあるのさ。

パラダイムシフト

【原因追求型】の論理にどっぷりハマっている場合、ドキドキ・ワクワクする未来の可能性について考えよう、とアドバイスされたところで、「そもそも自分がやりたいことがわからない」という場合が珍しくないのですが、心配する必要はまったくありません。

なぜならば最初の段階で重要なことは「ドキドキ・ワクワクする未来の可能性について考える」ことであって、行動することではないからです。

それにも関わらず、多くの人は行動する前から「自分にできるか?できないか?」ということを考えて、「自分にはできない」という考えが頭によぎった瞬間に、未来の可能性について考えることをやめてしまうのです。

しかし「ドキドキ・ワクワクする未来の可能性について考える」という習慣を続けていると、「自分でも出来るのではないか?」と確信できることや、「自分もやってみたい」と思うことが、いくつか見つかるようになります。

なぜ?やりたいことが見つかるのかというと、あなたの注意が「自分自身」から「自分以外」に移るからです。【原因追求型】は「自分」や「過去」に注目する思考である一方で、【戦略型】は「自分以外」や「未来」に注目する思考なのです。

やりたいことが見つかれば、あとは「行動するだけ」です。そして行動しているうちに、「自分が嫌い」であることが、それほど気にならなくなるはずです。

まとめ

本レポートの目的は、あなたがあなた自身の人生を、これまでとは異なる視点で見られるようにすることです。これまでの内容をまとめておきましょう。

1.「自分が嫌い」な人は、自分が嫌いな原因を解消すれば、自分が好きになると誤解しています。「自分が嫌い」なのは、自傷的自己愛のメカニズムが原因です。つまり自分が好きだからこそ、自分を守るためのごくごく自然な防衛反応として、「自分が嫌い」という感情が生まれているのです。

2.「自分が嫌い」という感情は、自己愛が健康である証であり、願望水準が高いことの証でもあるため、必ずしも悪いことではありません。しかし「自分が嫌い」である状態はメンタルを消耗させるために、長くは続かないでしょう。

3.「自分の人生をなんとかしたい」のであれば、「自分が嫌い」なうちに対処するのが得策です。しかし多くの人は【原因追求型】の思考にハマっているため、「やったほうがいいこと」に忙殺され、コスパ・タイパを追求しているうちに、メンタルも身体も疲弊しきっています。

4.【原因追求型】の思考から脱却するためには、【戦略型】の思考が有効です。過去・原因・自分ではなく、「ドキドキ・ワクワクする未来の可能性について考える」ことに、より多くの時間を使いましょう!

5.「やったほうがいいこと」ではなく、「できること」もしくは「やりたいこと」のために、あなたの時間とお金と集中力を使いましょう!

本レポートのアドバイスに従えば、「自分が嫌い」という感情をバネにして飛躍する突破口を見つけることができるでしょう!

最重要メッセージ

もちろん本レポートだけで、あなたの人生に必要なことをすべてカバーできるわけではありません。しかし本レポートのなかで、一つだけ忘れてほしくない大切なメッセージがあります。

本レポートであなたにお伝えしたことのなかで、他のすべてのことは忘れてしまっても、忘れてほしくないメッセージが一つだけあるとすれば・・・それはなんでしょうか?

ズバリ・・・

原因追求型は、過去の後悔と、暗い未来のダブルパンチに苦しむ宿命から逃れることができません。

なぜ過去の後悔から抜け出せないのでしょうか?理由はシンプルです。なぜならばタイムマシーンに乗って過去に戻り、その原因を取り除く・・・なんてことは、誰にとっても不可能だからです。

なぜ暗い未来に閉じ込められるのでしょうか?理由はシンプルです。原因追求型は、過去⇒現在⇒未来という因果律で物事を判断するため、過去の出来事に後悔がある⇒だから現在の「自分が嫌い」⇒「自分が嫌い」な自分の将来は暗い・・・というような思考回路から抜け出せなくなってしまうのです。

過去にも未来にも逃げ道がない閉塞状態は、メンタルに悪影響を及ぼします。その突破口になるのが「戦略型」の思考です。

チャンスは自分で創る

戦略型の思考をする人は、過去の経験が現在や未来に影響を与えること自体は認めます。しかし同じことを経験したからといって、誰もがみな同じように育つわけではないことに注目します。

たとえば極端な話、貧乏でも成功する人はいるし、ブサイクでも容姿端麗な人と交際する人はいます。

このような話をすると、原因追求型の思考にハマっている人ほど、「あの人は運がいいから、幸運を手に入れたのだ」などと主張するのですが、そのような思考をしていると「人生の落とし穴」に落ちる可能性があるので、くれぐれも注意する必要があります。

なぜならば「あの人は運がいいから幸運を手に入れたのだ」と考える人は、「自分にも運が巡ってくれば、幸せになれる」と思い込むようになるからです。そして「今がチャンス!」と囁かれたら、「自分にもようやく運がまわってきた!」と喜び、すぐに飛びついてしまうのです。

詐欺に騙される人はたくさんいる・・・なんてことは誰もが知っています。それにもかかわらず、詐欺に騙される人が後を絶たないのは、ちゃんとした理由があるのです。

【戦略型】の思考をする人は、チャンスはお金で買うものでもなく、他人から与えられるものではないことを知っています。チャンスは自分で創るものなのです。

なぜならばそもそも「チャンス」というものは、「これがチャンスかもしれない」と気づいた人にだけ、やってくるものだからです。

戦略型への第一歩

もしあなたが「自分が嫌い」なら・・・言葉で自分を傷つけているなら・・・焦っているなら・・・他人にどう思われているか気になるなら・・・メンタルが消耗しているなら・・・他人からの肯定的なアドバイスも否定的なアドバイスも受け入れられないなら・・・タイパやコスパに追われているなら・・・「やったほうがいいこと」に駆り立てられているなら・・・突破口が見つからないなら・・・過去に後悔があるなら・・・将来に不安があるなら・・・閉塞感があるなら・・・生きづらさを感じているなら・・・いまこそ「戦略型」の思考に切り替えるべきです。

この世に「自分が嫌い」な人など、(本当は)一人もいないのです。この世に完璧な人間など、(本当に)ひとりもいないのです。

だから過去を振り返って「どこに原因があるのだ?」と考える癖を捨てなければなりません。「過去が現在を決め、現在が未来を決める」と考える癖を捨てなければなりません。

「やったほうがいいこと」をTo Doリストに付け加えるかわりに、「やるべきこと」や「やりたいこと」のために時間とお金と集中力を使いましょう。何かを付け加え続けるかわりに、取り除くのです。

悩む時間を減らし、ワクワク・ドキドキする未来の可能性について考える時間を増やすのです。そうすれば人生がシンプルになります。

本レポートを読んだことによって、あなたは【戦略型】の思考に切り替える第一歩を踏み出しました。ぜひ時間を取って、本レポートに書いてあることを実生活に取り入れてみてください!とても素晴らしい再スタートを切ることができるはずです!

それではまた朝8時頃にお届けしているメールマガジンでお会いしましょう!