世界で人気のある「日本発の」ネットフリックス作品は(アニメを除けば)ほとんどありませんが、『5週連続グローバルトップ10入り』のドラマが登場しましたので、レビューしておきたいと思います。
予告動画)地面師たち
ハリソン山中の異常性
『地面師たち』の登場人物のなかで、ハリソン山中(演:豊川悦司)はひときわ目立っています。ハリソン山中はどんな人物でしょうか?
ハリソン山中の人物評は「あいつは、狂ってる」です。作品のなかで何度も「ハリソン山中は狂っている」というような証言がでてきます。
ハリソン山中はどのような意味で、狂っているのでしょうか?
主演の辻本拓海(演;綾野剛)が「なぜ地面師をやっているのか?」ということは、作品を観ればすぐに理解できるはずです。
辻本拓海役:綾野剛
地面師グループの交渉役。ある事件に巻き込まれ家族を失い、無気力にデリヘル嬢送迎車の運転手をしていたが、大物詐欺師のハリソン山中と出会い、地面師グループの中でもフロントとなる交渉役として詐欺の仕事を始める。
【引用:CINRA】
一方のハリソン山中については、作品を鑑賞していてもほとんど説明がありません。ハリソン山中をどのように理解するか?という点が、作品を楽しめるかどうかの試金石になるでしょう。
ハリソン山中の人物像をひも解く最大のヒントは、作品の冒頭のシーンにあります。海外でハンティングを楽しむハリソン山中は、同行者から「日本では狩りはできないのか?」と問われ、こう答えます。

(狩りは)できるが、馬に乗ってハンティングするような広い土地はない。クソみたいな狭い土地に、クソみたいな人間がひしめき合って生きている。
作品のなかで、ほとんど喜怒哀楽の感情を表に出さないハリソン山中ですが、このセリフをの場面では怒りがにじみ出ています。ハリソン山中は、一体何に怒っているのでしょうか?
本来、あり得ない話
冒頭のシーンに話を戻します。ハンティングの同行者から「仕事は何をやっているんだ?」と問われたハリソン山中は、「地面師」と答えます。地面師とは、何をする人たちでしょうか?
地面師とは・・・「他人の土地を、勝手に売買する、犯罪集団」のことです。
「他人の土地を勝手に売買するなんてあり得ない!」というのが、狂っていない「常識人」としての感想ではないでしょうか?
ここで立ち止まって考えてみたいことは、そもそもなぜ地面師は「あり得ない」のか?ということです。その答えはシンプルに・・・「所有権」や「契約」といった近代社会の根幹をなす概念を軽視しているからでしょう。
他人の土地を(所有権を無視!)、勝手に売買(契約の捏造!)するなんて・・・やっぱり正気の沙汰ではありません。しかし・・・ハリソン山中の立場からすると、所有権や契約にがんじがらめになっている「常識人」のほうが狂っているように見えるのではないでしょうか?
本来であれば誰のものでもないはずの土地に、値段がつくなんて・・・・冷静になって考えてみれば・・・オカシイのではないでしょうか?
わたしたちは「カラダが資本です!」なんて言葉を当たり前のこととして受け入れています。同様に「土地は資本」ということも当たり前のことのようにして受け入れています。
しかし・・・資本が利子を生み、土地が地代を生み、労働で賃金が発生する(お金で人が雇える)なんてことのほうが、本来、「あり得ないこと」なのではないでしょうか?
「動機」を探る鍵
ハリソン山中は貧乏人ではありません。悠々自適な余生を過ごすだけのお金は、すでに手に入れています。
つまりハリソン山中は、お金のために詐欺をしているのではありません。一体何が、ハリソン山中を突き動かしているのでしょうか?
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