【空(大乗仏教)#7】君たちはどう生きるか

吉野源三郎原作の『君たちはどう生きるか』の漫画版は、2018年にもっとも売れた1冊になりました。原作は昭和12年の本にもかかわらず、推定売上部数は150万を超えているというから驚きです。

ジャーナリストの池上彰やコピーライターの糸井重里が絶賛し、ジブリの宮崎駿は映画化しました。そして実は……『君たちはどう生きるか』にも空の思想が隠れているのです。

君たちはどう生きるか?

『君たちはどう生きるか』は、お父さんを3年前に亡くした中学2年生、「コペル君」こと本田潤一君が、日常生活で直面するさまざまな問題を通して、母方の叔父さんと、生き方を考えて成長して行く物語です。

『君たちはどういきるか』のなかで取り上げるテーマは多岐にわたります。

君たちはどう生きるか
  • イジメ
  • 人間関係
  • 貧乏
  • 偉大な人間
  • 裏切り etc

もちろん物語の最大のテーマは、君たちはどう生きるか?なのですが、そのことを考えるヒントもちゃんと用意されています。(ここから先は「君たちはどう生きるか?」のネタバレを含みますので要注意!)

コペル君が生産しているもの

物語中、貧困について考えるところで、叔父さんはコペル君に対してこんな問いかけをします。

君は何も生産していないけど、大きなものを毎日生みだしている。それは何だろうか?

お互い人間であるからには、一生のうちに必ずこの答えを見つけなければならない。

君たちはどう生きるか

しかしその答えは作品の中には書かていないため、読者の一人一人が考えるべき宿題として残されます。

縁起の考え方すなわち「関係性が存在を生み出す」という発想を知っている人であれば、答えにすぐたどりつくはずです。そして物語を読めばその答えに確信をもつことでしょう。

物語の主人公はコペル君ですので、素直に読めば「コペル君の成長物語」なのですが、成長するのは「コペル君だけじゃない」というところがポイントになります。

コペル君がさまざまな問題にぶち当たるたびに、コペル君を導いていたはずのおじさんも、コペル君との出会いによって成長していくのです。そう。つまりは縁起であり空なのです。具体的には……

コペル君の縁起

コペル君がいるから、叔父さんがいるのです。生徒がいるから先生がいるのです。コペル君の父親はなくなりますが、叔父さんや母親が父親の役割を果たすのです。そして新しい役割を担うことになったおじさんも、新しい人間関係(縁起)によって成長するのです。

そう。叔父さんはコペル君と関わろう思ったからこそ関係性が生まれたのです。同様の関係性は、コペル君と友人たちの関係性にも見いだせます。

例えばコペル君はクラスメイトを裏切ります。罪悪感にさいなまれて不登校になりますが、最終的にはクラスメイトと新しい関係性を見出します。

そのように考えていくと、どのように生きるのか?という問いは、「どのような関係性を構築していくのか?」という問いに変換できることに気づくのではないでしょうか?

コペル君の悟り

物語の最後では、コペル君はそのことに気づきます。自分がいて他人がいるのではなく、「世の中の流れの中に自分がいる」ということに気づくのです。つまりコペル君は大乗仏教における空の世界を体感したわけです。

以上のように、縁起や空の視点から「君たちはどう生きるか」を読めば、著者が答えをズバリ指摘しない理由もわかるはずです。

著者が「どう生きるか?」という答えを読者に授けない理由は……「あなたを含む人間関係は人それぞれだから」です。

実際問題として、あなたの現状は他人とは違うはずです。

あなたはナポレオンみたいに才能があるかもしれないしないかもしれません。貧乏かもしれないしお金持ちかもしれません。子供かもしれないし老人かもしれません。男かもしれないし女かもしれません……と考えれば、「こう生きろ!」とアドバイスすること自体がそもそも不可能なのです。

ありきたりなそれっぽい答えを読者に授けることほど無意味なことはない」という吉野源三郎さんからのメッセージだとわたしは解釈しています。

あなたはどう生きるか?

わたしが経営コンサルタントだった時、企業毎に「戦略」を立案する仕事をしていました。むしろある企業で通用した戦略が別の企業でもそのまま通用するなら、それは本当の意味での戦略ではないのです。

同様に、他人の成功をそのまま鵜呑みにすることはできないのです。なぜならば、その戦略は「あなたのもの」ではないからです。だ・か・ら……自分で考えるしかないのです。

おそらく吉野源三郎さんは「読者を悟りの入り口にまで案内するところまで」と割り切っていたのだと思います。わたしも同感です。「あなたが誰のために何をするか?」という問いに答えを出せるのはあなただけなのです。

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