マリッジ・ストーリー ~ 離婚で愛を語る

「美女と野獣」が、女性への教訓を伝える物語から男性への教訓を伝える物語に変化したように、時代の流れに沿って愛の物語は変化します。

bibyotoyahyuu 美女と野獣 ~ 愛はダンスのようなもの

現代はどんな時代でしょうか?と問われれば、「離婚が珍しくない時代」です。そのため愛の崩壊を離婚で語る作品も珍しくありません(例:『昼顔』)。

しかし今回紹介する映画は「離婚で愛を語る」珍しい作品です。

予告動画)マリッジ・ストーリー

これ以降の内容は、ネタバレも含みますのでご注意ください。

離婚の物語

「マリッジ・ストーリー」の観客がまず疑問に思うことは、タイトルの内容の乖離でしょう。タイトルには「結婚の物語」とあるのに、内容は間違いなく「離婚の物語」なのです。

この謎をひも解くことが「マリッジ・ストーリー」を理解するヒントになります。タイトルの謎は、「イカとクジラ」との関連で説明したほうがわかりやすいでしょう。

daiouika イカとクジラ ~ 両親だって男と女

「イカとクジラ」は、両親の離婚を経て成長する男の子の物語なのですが、実は……「イカとクジラ」と「マリッジ・ストーリー」の監督は同一人物なのです。

「イカとクジラ」はノア・バームバック監督の「両親の離婚」を題材にしており、「マリッジ・ストーリー」は「自分の離婚体験」を題材にしているのです。

嫌いな父と一緒

父が息子に呪いをかけることはよくあります。「父のようになりたくない」と願えば願うほど、父のようになってしまうのです。

そして残念ながら……「マリッジ・ストーリー」の主人公チャーリー(役:アダム・ドライバー)も、父と同じ間違いを犯してしまうのです。

チャーリー(夫)の問題はどこにあるのか?妻のニコール(役:スカーレット・ヨハンソン)は、夫の問題に気づいていました。

夫の問題点
  • 絶対に妥協せず、自分のやりたいことを貫く
  • 自分の世界に没頭しがち
  • 自分が何を求めているか、いつも明確

上記問題点は「チャーリーの好きなところは?」という問いに対し、妻のニコールが答えたものなのですが、好きなポイントがある日を境に、嫌いなポイントになることは珍しくないですよね?(例:彼氏の優しさが好きだったのに、ある日を境に、その優しさが優柔不断だと感じられて嫌いになる)

では夫は妻をどう感じているのでしょうか?妻の好きなところは?と問われて、チャーリーはこう答えます。

妻の好きなところ
  • 人の話をじっくり聞くところ
  • 人の心をほぐしてくれる。居心地の悪い時でも
  • 僕が行き詰まった時は、そっと背中を押して、あとは放っておいてくれる
  • 片づけは得意じゃないけど、僕のために頑張ってくれる
  • ハリウッドにいれば映画スターでいられたのに、僕のためにニューヨークに住んで、僕が演出する舞台に出てくれる
  • 僕のイカれたアイデアを見事に演じてくれる

対照的な夫婦ですが、共通点もあります。それは「負けず嫌いなところ」。これがゆくゆくの離婚協議で大変なことになってくわけです。

10分間のののしり合い

「マリッジ・ストーリー」最大のクライマックスは、10分にわたる口論です。

チャーリーは、自分が軽蔑していた父親のようなセリフを妻に浴びせます。「君なんか、僕が演出してやらなかったら、ハリウッドの売れない女優だったよ!」と。

妻の仕事を愚弄する最低なセリフをきっかけにして、あとはもう「お前なんか死ねばいい!」と激しく罵り合います。

そして「もしかしたら復縁もあるかも?」という観客の淡い期待は木っ端みじんにされてしまうのです。この作品のどのあたりが「マリッジ・ストーリー」なのでしょうか?

妻へのラブレター

「マリッジ・ストーリー」の終盤で、チャーリーとニコールの息子が、冒頭のカウンセリングでニコールが書いた「チャーリーの好きなことリスト」を見つけて読むシーンがあります。

最後にはこう書いてあります。

私は彼を愛することをやめられない。たとえそれが何の意味もないことになっても。

そう。ニコールがカウンセリングで「チャーリーの好きなことリスト」を読むのを拒んだのは、それがチャーリーへのラブレターだったからなのです。

チャーリーはニコールの手紙を読んで、初めて気づきました。自分がどれだけ大切なものを失ったのかということを。そしてそのことを妻に伝えるのが……「マリッジ・ストーリー」という作品そのものなのです。

映画で元妻にラブレターを送る。そのタイトルが「マリッジ・ストーリー」というわけです。チャーリーは離婚を通じて、愛を知ったのです。

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