日本流教育の理念

前回の講義では『近代教育の理念』について説明し、日本型教育の理念は、近代教育の理念と真っ向から対立していることに言及しました。一体、『日本型教育の理念』とはどういうものなのでしょうか?

日本型教育の理念

実は、『日本型教育の理念』とは「教育の責任は国家にある」という前提に基づいた「イデオロギー教育」の実践にあるのです。

教育の責任は国家にある

2021年3月に公立小学校を辞めて理想の学校づくりをスタートさせた蓑手章吾氏は、公立の現場にいた頃、保護者の方のこんな言葉を耳にしたそうです。

私は好きこのんで、この学校に子どもを通わせているわけではない。この学区に家があるから、仕方なくこの学校に通わせているんだ。だから、普通の教育をしてほしい。

【引用:東洋経済ONLINE

そう。親の立場としても、子どもの立場としても、教師の立場としても、「文部科学省の方針に従っている」という意識もなしに、ただ従わざるを得ないのです。

事実として小学校の約99%は公立であり、無償ということも手伝って「公立を選んだ」という自覚もなしに「文部科学省の決めた教育を選ばざるを得ない」のではないでしょうか?

たとえば「ゆとり教育」という賛否両論のある制度がありました。ゆとり教育とは「ゆとりある学校を目指した教育のこと」ですが、反対している場合でもゆとり教育から逃れることは、大多数の人にとってはほとんど不可能なのです。

そう。日本教育の大前提には「教育のやり方は国家(特に文部省)が決めるので、親も学校も文部省の方針に従うべき」という発想があるのです。だから教育の責任は親にあるという近代教育の理念を公立校の現場で実践することはほとんど不可能なのです。

イデオロギー教育の実践

一般的に「イデオロギー教育」というと、森友学園が運営していた私立塚本幼稚園がやっていた「国歌斉唱、教育勅語と五箇条の御誓文の暗踊」といったことや、マルキシズムや共産主義、日教組による『偏向教育』を想像するでしょう。

しかし私立塚本幼稚園でなくても、現代日本の教育はほとんどすべてといってよいほど「イデオロギー教育」に染まっているのです。現代の日本教育が「イデオロギー教育」であることは、明治時代の教育と比較するとわかりやすいかもしれません。

大日本帝国を支えたのは、明治教育です。明治教育の目的は「富国強兵」でした。具体的にいえば、列強に押し付けられた不平等条約の改正と防衛国家の建設、そして近代資本制国家として自立することが明治教育の目的だったわけです。

そのため教育に必要とされたのは、軍人・官僚・技術者の養成でした。そのため天皇制絶対主義をひたすら刷り込み、国のための道具として役に立つことが推奨される機能主義的教育が、明治教育では追求されたのでした。

明治教育は、戦後どのように変わったのでしょうか?

防衛国家を建設することが目的だった明治教育は、戦後の日本では経済国家を建設する「戦後教育」に変わりました。表面上は大きな変化があったように錯覚しても不思議ではありません。

とはいえ、明治教育にせよ「戦後教育」にせよ、社会の要請だけが重視される徹底した機能主義的教育であることには変わりがなかったのです。

臣民からエコノミックアニマルへ

明治教育の目的は「陛下に忠実なる臣民を養成すること」でしたが、戦後教育の目的は「奴隷的エコノミック・アニマルの養成」になっています。

しかもわたしたち国民が「奴隷的エコノミック・アニマルの養成」から逃れるなんて、ほとんど不可能なのです。なぜか?

明治教育においては軍隊(体験)が通過儀礼として利用されていました。では戦後教育における通過儀礼はなんでしょうか?そう。受験教育が「エコノミック・アニマル養成」のための通過儀礼になっているのです。

だから戦後教育におけるイデオロギー教育は、明治教育よりも徹底していると断言してもいいでしょう。

事実として明治時代は小学校は義務教育でしたが、すべての子どもが中等教育、高等教育を目指すわけではありませんでした。

明治時代において、大多数の子どもは小学校を卒業すると丁稚(でっち)となり小僧となって商業の世界に入ったり、職人や芸人の弟子になったり、漁業や農業のスキルを実践で学んだのでした。

しかし戦後教育において、「受験勉強を一度も経験したことがありません」という人は少数派で、ほとんどの人が受験地獄に巻き込まれています。「受験をしない」と宣言すれば、その瞬間に、親や教師から強く反対されるでしょう。

わたしも物心ついた子どもの頃に、親から「公文式をやめるなら、もううちの子ではありません。施設に行ってもらいます。」と宣告され、大泣きしながらわけもわからずに許しを請うた経験があります。

その結果、わたしは企業の部品として死に物狂いで働くことを疑わない「奴隷」として社会人デビューするメンタリティーを身につけてしまったのです。

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