「縁起」を解読した大天才

前回の講義では、縁起を理解する4つの鍵を紹介しました。

縁起を理解する4つの鍵
  • 空(小乗仏教)
  • 空(大乗仏教)
  • 仮観
  • 中観

今回の講義では仏教の基本知識として、『釈迦』と『龍樹(ナーガールジュナ)』という二人の偉人について解説します。

早速、釈迦の話からはじめましょう。

釈迦

釈迦の生没年はわかっていません。紀元前7世紀から紀元前4世紀まで、さまざまな説が唱えられています。

そもそも釈迦という人物は実在するのか?と疑問に思うかもしれませんが、釈迦が実在したことは証明されています。

19世紀にイギリスの考古学者がネパール南部のルンビニーの遺跡で、「アショーカ王が、即位の20年後に、釈迦の生誕地であるこの地で祭祀を行った」と刻まれた古代の石柱を発見しています。

釈迦(ゴータマ・シッダルタ)はシャカ族の王子として生まれますが、29歳で出家します。釈迦が修行をはじめた理由は「苦」でした。

王子だった釈迦は「この世に生まれることは苦しみである、老いることは苦しみである、病になることは苦しみである、死ぬことは苦しみである」ということに気づき、出家を決意するのでした。

四門出遊

釈迦が生老病死に気づいたきっかけとして有名なのが、四門出遊(しもんしゅつゆう)の逸話です。

ある日、釈迦は城の東門を出て老人を目にします。南門を出るときには病人に出会いました。西門を出たときに死人を見ます。さらに北門を出て修行僧に出会い、出家を決意するのでした。

釈迦は苦行を重ねますが、35歳の時、苦行の過ちを痛感してスジャータという名の娘がお布施で持ってきた「牛乳粥」を口にし、菩提樹(ぼだいじゅ)の下で瞑想し、ついに「悟り」を開いたといわれています。

釈迦は何を悟ったのか。それこそが「縁起」なのです。

縁起とは「すべての存在は関係で成り立っている」ということです。言葉を変えれば「関係が存在を生み出す」という見方です。

「関係が存在を生み出す」という主張は、「この世に絶対的なものはない。すべてのものは仮説(幻)である」という主張につながります。

釈迦は「魂」の存在を否定し、「死後の世界」も否定しています。それどころか「あなたの目に見えている現実世界もあなたの心がつくった仮説である」ということを主張しているのです。

あなたは今どこにいるかわかりませんが、周りを見渡してみてください。いろんなものが見えるはずです。見えるものは「ある」と感じられるはずですし、目に見えるモノを実際に触れれば、「ある」という実感は強くなるはずです。

しかし……あなたが「ある」と感じているものは実は「ない」ともいえるのです。(なぜならば、関係性が変われば存在も変わるから)

ですからもし釈迦に「わたしは悩んでいます。胸が苦しいし、ストレスで頭がおかしくなりそうです。どうしたらいいでしょうか?」と相談すれば、以下のようにアドバイスされるでしょう。

悩むのが苦しいなら悩むのをやめなさい。あなたの悩みですら仮説(幻)なのですよ!むしろ悩みという『苦』をきっかけにあなたは悟れるのですからラッキーですよ!!」とアドバイスされるに違いありません。

しかし釈迦にそのようにアドバイスされたところで、あなたが釈迦の意見に納得するどころか「わたしは馬鹿にされているのではないか?」と考えてしまうのではないでしょうか?

理解困難な「縁起」

釈迦が悟った当時、「縁起」の思想について理解できた人はほとんどいなかったはずです。そのことは少し冷静になって考えてみればわかります。

もしあなたの父親(母親)が、ノーベル物理学賞を受賞したとしましょう。あなたは父親(母親)からノーベル賞を受賞した論理について、説明を受けたとします。あなたはノーベル賞受賞者から直々に説明を受けた理論を100%理解し、後世に伝えることができるでしょうか?

おそらくあなたの答えは「ノー」のはずです。

だからこそ「関係が存在を生み出す。だからこの世に絶対的なものはないし、すべてのものは仮説(幻)である」ということを理解するためには、厳しい修行が必要だと考えられていたのです。

ここにジレンマがあります。

理解できない現世の哲学?

釈迦は「魂」の存在も否定するだけでなく、弟子には「葬式には近づくな」ともいっています。つまり「縁起」は生きている人のための哲学なのです。

しかし生きているうちに厳しい修行に挑戦し、悟りをひらくなんてことは、大多数の人には不可能です。釈迦の悟り(縁起)は、生きている人の哲学なのに、生きている人が理解するためには厳しい修行が必要だというのです。なんとももどかしい話ではないでしょうか?

縁起を理解し実践することができれば、あらゆる悩みから解放されるというのに……生きているうちに縁起を理解できないなんて……残念すぎる話ではないでしょうか?

そこで立ち上がったのが、ナーガールジュナという大天才です。

ナーガールジュナ

2世紀のインド仏教の僧。漢訳で「龍樹」とも呼ばれる。

龍樹

ナーガールジュナは、縁起の説明原理として「空」(くう)の思想を生み出しました。

そして「空」を理解し、「仮観」(けがん)を理解し、「中観」(ちゅうがん)を理解するというプロセスを踏むことによって、釈迦の悟り(縁起)が理解できることを喝破したのです。

もしかしたらあなたはさらに不安になったかもしれません。「空って……なんのこと?」と思った人は一人や二人じゃないはずです。

例えば2017年7月28日、稲田朋美(元・防衛相)は、南スーダン国連平和維持活動(PKO)の派遣部隊が作成した日報をめぐる問題で引責辞任しました。

記者から心境を問われた稲田朋美さんは「心境ですか?空ですね」と答えました。この時も大多数の国民は思ったはずです。「空ってなに?」と。でも安心してください。あなたにも「空」は理解できます。

さて……ここまで現在の状況を整理しておきましょう。

悟る順番(龍樹式)

釈迦の悟り「縁起」を理解すれば、あらゆる悩みから解放されます。実践すれば人間関係も変えられます。

人間関係が変わるということは、人間関係をベースとしたあらゆる営み(夫婦関係、ビジネス 等)にも変化を起こせるということです。

ですからわたしは、なにがなんでもあなたに「縁起」について理解してほしいと思っています。しかし「縁起」を理解するのは一筋縄ではいかない問題です。

そこで大天才であるナーガールジュナの教えをベースにして、あなたに縁起について解説します。

具体的にはナーガールジュナが提案した、「空」(くう)、「仮観」(けがん)、「中観」(ちゅうがん)を順に理解するというステップを踏襲したいと思います。

早速、次回の講義では、「空」(くう)の概念について説明したいと思います。

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