アノミーの歴史5)統一教会

2022年7月8日午前11時31分頃、奈良市内の近畿日本鉄道大和西大寺駅付近にて、元内閣総理大臣で衆議院議員の安倍晋三が銃撃され、死亡するという殺人事件が発生しました。

世界平和統一家庭連合(以下、旧・統一教会)の信者である母親との関係に悩み、人生をメチャクチャにされた息子の山上徹也(やまがみてつや)による恨みつらみによる前代未聞の殺人事件にも、実は、アノミーの特徴をみることができるのです。

ズブズブ以上の関係

事件当初、メディアは旧・統一教会と安倍晋三元総理および自民党との関係性をほとんど報じませんでした。そもそも大手メディアは「旧・統一教会」という言葉を使わず、「ある宗教団体」という表現を貫いていました。

しかし参議院選挙が終わり、7月も後半になってくると次第に旧・統一教会と政治家が「ズブズブ」どころか「身内のような付き合い」をしていることが発覚しました。

旧・統一教会は「政治家秘書の養成所」までつくり、そこで20代~30代前半の容姿端麗な女性を教育し、政治家のもとに次々と送り込んでいたといいます。しかも女性秘書への給料は統一教会側から出ており、政治家は無料で容姿端麗の女性秘書を働かせていたというのです。

また政治家への援助は秘書の派遣だけではなく、ウグイス嬢などさまざまな選挙活動にまで及び、さらには旧・統一教会が票田になっていたことも白日の下にさらされたのです。Twitterでは「 #自民党って統一教会だったんだな」が1晩で24万ツイートされる大騒ぎになりました。

「日韓併合の罪を清算するために、日本人は韓国に貢献しなければならない」という怪しげな論理で、旧・統一教会は多額のお金を日本人から巻き上げています。

教祖のサイン入り「聖本」は1冊3000万円。令和3年(2021年)12月までの34年間に全国弁連所属の弁護士や消費生活センターが受けた統一教会に関する相談は3万4537件、被害総額は約1,237億円にもなるそうです。

しかも被害総額の約1,237億円という数字は、あくまでも相談を受けたものであるので、実際の被害額はもっと大きいといわれています。そして日本で集めた多額のお金は、世界中にある教団支部にばら撒かれ、旧・統一教会の活動資金になっているのです。

完全アノミー

国家と宗教は切り離して考えるべきであるとする日本国憲法の「政教分離の原則」に真っ向から対立している自由民主党の党是(とうぜ:党の基本方針)が「憲法改正」です。

憲法を完全に無視して選挙活動をしている自民党が、憲法改正を堂々と主張しているというブラックジョークのような状況になっています。

それにも関わらず、統一教会の力を借りて政治をやっていた政治家が、議員を辞職したり、秘書を辞めさせたという話はまったく出てきません。

「朱に交われば赤くなる」、「赤信号みんなで渡れば怖くない」ということでしょうか?

しかも政治家と統一教会とのズブズブ以上の関係が明らかになったのに、堂々と自民党を批判する論調は(わたしの肌感覚では)あまり盛り上がっていません。同様に、安倍晋三元総理を銃撃した山上徹也に対しても、旧・統一教会にも対しても、それほど批判する論調は強くありません。

おそらく日本人としては、山上徹也の生い立ちに同情する気持ちもあり、安倍晋三元総理が亡くなった悔しい気持ちもあるのでしょう。また統一教会からの援助に甘えてきた政治家の気持ちも、「統一教会」の名前を出さないでいるメディア関係者の気持ちも、なんとなく全部わかってしまうのでしょう。

しかしまさにこのような状態こそがアノミーの究極系である「完全アノミー」ともいえる状況なのです。日本人は、完全に無規範、完全に無目的、完全に盲目的予定調和説の状態に陥っているのではないでしょうか。

そもそも第4次安倍再改造内閣時代は、党4役を含めると日本会議国会議員懇談会の幹部が12人もいる極右内閣でした。

しかし同時に統一教会がらみの大臣と党4役も計12人いたのです。ドナルド・トランプ大統領の身内にイスラム教が混在しているというような話ではないでしょうか。

背反する信念をもつ日本会議系と統一教会系が一緒にいれば、対立が起きても不思議ではありません。しかし当事者同士が宗教のイデオロギーで争っているという話は聞きません。これこそがまさに完全無規範のなせるわざなのです。

さらにいえばもしかしたら、統一教会にハマった山上徹也の母親もアノミーだったかもしれません。信頼していた人(旦那)に自ら命を絶たれるという状態は、急性アノミーを引き起こします。その急性アノミーを吸収したのが、旧・統一教会だったかもしれないのです。

そして精神面でも経済面でも本来であれば自分を助けてくれるはずの母親に裏切り続けられた山上徹也容疑者も、アノミーだったのではないでしょうか?これは根拠のない話ではありません。

山上容疑者のTwitterアカウント(注:2022年7月中旬に突如として凍結)では、安倍晋三元総理を批判するというよりもむしろ応援していたそうです。山上徹也のアノミーを吸収したのが、自民党政治だったことが推測できます。

しかし山上徹也は、ある時期を境にして、安倍晋三元総理をはじめとした自民党上層部も統一教会のシンパであることを確信するに至ります。そう。おそらく山上徹也は父親に死なれ、母親に裏切られ、自民党にも裏切られていたのです。

結果、吸収されなかったアノミーは暴力として吹き出すことになったのではないか、というのがわたしの考察です。おそらく山上徹也が暴力という手段を用いたのは、彼が異常だったことが原因ではないのでしょう。山上徹也のアノミーを吸収するはずのあらゆる社会の装置が、正常に機能していなかったことに、問題の核心があるのではないでしょうか。あなたはどう思いますか?

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