1997年の「酒鬼薔薇聖斗」事件を皮切りに、世紀末にかけて少年たちによる動機不可解な凶悪犯罪が立て続けに発生しました。加害者たちは「脱社会的な存在」と言われました。
「脱社会的な存在」は「え?そんなことで?」という簡単な理由で人を殺します。2000年5月のGWに主婦を殺した愛知県豊川市の高校生は「人を殺す経験をしたかった」と語りました。
2000年にバスジャック事件を起こして乗客らを殺傷した佐賀市の高校生は、「母親が憎かったので世間を騒がせようと思った」と証言しています。
さらにショックを与えたのは、そのころのニュース番組に出演していた高校生が「殺人がいけない理由がわからない。自分は罰が怖いから殺さないだけだ」とコメントしたことでした。わたしたちはどのようにして「脱社会的な存在」と向き合えばいいのでしょうか?
予告動画)悪魔を見た
これ以降の内容は、ネタバレも含みますのでご注意ください。
罰を与える
脱社会的な存在であるギョンチョル(役:チェ・ミンシク)によって、奥さんと子どもの命を奪われたスヒョン(役:イ・ビョンホン)は復讐を決意します。
スヒョンの復讐のやり方は、殺すことではなく痛めつけることでした。殺してしまってはそれで終わりです。だから「死にたいと思うほどの苦しみ」を何度も与えることが、妻と子どもへのせめてものはなむけになると考えたのです。
だからスヒョンはギョンチョルをボコボコにして入院させて、入院中も行動を監視して、ギョンチョルが犯罪を犯そうとすればまたボコボコにして……ということを繰り返すのです。
しかしギョンチョルは脱社会的な存在であるがゆえに、スヒョンの想定を超えた行動を思いつき、監視から逃れることに成功します。
そしてスヒョンからの監視から逃れることに成功したギョンチョルは、スヒョンの流儀にのっとり「死にたいと思うほどの苦しみ」をスヒョンに与えるのです。
結果、「厳しい罰を与えれば、少しは反省して悪さをやめるだろう」というスヒョンの目論見は完全に破綻します。
動機は何か?
激しい罰を与えても他人を傷つけることをやめる気配がないギョンチョルに対し、どのような復讐をしたら苦しむのだろうか?という難題が、スヒョンと観客に突きつけられます。
そしてスヒョンはその答えを見つけて実行に移します。その結果、復讐を達成したスヒョンは、ギョンチョルと同じく、「悪魔」になってしまうのです。
しかし殺人を犯したスヒョンが「悪魔」になったと解釈するのは、監督が仕掛けた「罠」だと思います。ちゃんと映画を観れば、スヒョンは人を殺すことに対して苦しんでいます。些細なきっかけで人を殺す脱社会的な存在と、スヒョンは明らかに違うのです。
ではギョンチョルは「悪魔」なのでしょうか?
悪魔の出自
そもそも脱社会的な存在はなぜ生まれるのでしょうか?それは「勇気スパイラル」(参考:アドラー入門講座)を回すことに挫折したからです。
勇気スパイラルは、試行錯誤⇒他者貢献⇒尊厳(試行錯誤に戻る)を繰り返すプロセスですが、初期段階で失敗する主なパターンは3つあります。
1つ目は、他者に「承認」してほしいあまり、周囲の期待と自分の能力の落差に直面して失敗するのがこわくなり、「試行錯誤」にふみ出せなくなるパターン。試行錯誤に踏み出せない原因が「尊厳」にあり、試行錯誤できないがゆえに「自由」から見放されてしまうこのタイプは、一部「ひきこもり」に当てはまります。
2つ目は、他者に「承認」してほしいあまり、周囲の期待に反応しすぎるタイプ。他者に気に入られたくて「いい子」を演じたり、周りに遠慮して意見をいえなかったりする「アダルトチルドレン」に当てはまります。また他者をねたんだり嫉妬したりして、攻撃することもあります。
3つ目は、他者から「承認」されない環境に適応してしまい「承認?何それ?」とばかりに、他者との交流と結合した「尊厳」を投げだすタイプ。これが「脱社会的な存在」に当てはまるのです。
病気ではない
「脱社会的な存在がなぜ生まれるのか?」ということを理解すれば、脱社会的な存在が「病気」ではないことがわかるでしょう。脱社会的な存在にとって、他人はそれほど重要な存在ではないのです。だからあっさり殺すことができるのです。
他者貢献によって尊厳を獲得したことのある人間ならば、目の前の人間が自分にとってはどれほど価値がない人間に思えても、「別の誰かが、この人を必要としているかもしれない」ということを想像します。しかし脱社会的な存在には、そのブレーキが働かないのです。
そのため脱社会的な存在が殺人を犯したとき、「動機は何か?」と問うことに意味はありません。なぜならばブレーキが壊れているので、些細な理由で人を殺すことがあるからです。
さて……今回は脱社会的な存在について解説しましたが、「わたしには関係がない」とは思わないでください。「不安スパイラル」(参考:アドラー入門講座)を回すことに慣れた日本人は、「ひきこもり体質」「いい子」「アダルトチルドレン」「忖度マシーン」「有名人を叩く」という作法が身についており、それが「当たり前だ」と思っているフシがあるからです。
勇気スパイラルを回す小さな一歩を踏み出して、是非、次なる大きな試行錯誤につなげていってください。
■ 「世界」を学べる映画

