東京飯田橋にあるホテル『グランドパレス』がコロナ禍による影響により、2021年6月で営業を終了しました。『グランドパレス』といえば、1973年に発生した金大中(キム・デジュン)拉致事件が有名です。
15年後の1998年に韓国大統領になる金大中(キム・デジュン)は当時はまだ野党の指導者という立場でした。韓国政治の大物が日本のホテルで白昼堂々と拉致されたのですから、この事件はまさに「人権侵害」であり、なおかつ日本の「主権侵害」であるとして大きな騒動になりました。
拉致を指示したのは誰か?
それは当時韓国の大統領だった朴正煕(パクチョンヒ)です。収賄などの罪で懲役22年の実刑が確定し服役中の朴槿恵(パク・クネ)元大統領のお父さんといえば親近感が湧くかもしれません。(注:朴槿恵は2021年に恩赦)
そして拉致を実行したのはKCIA(韓国中央情報部)です。そして今回紹介したい映画はまさに朴正煕(パクチョンヒ)がKCIA(韓国中央情報部)のナンバー2に暗殺されるまでのお話です。
予告)南山の部長たち
これ以降の内容は、ネタバレも含みますのでご注意ください。
韓国中央情報部
「南山」というのは韓国中央情報部(KCIA)のある地名のことです。アメリカのCIA(中央情報局)のことを「ラングレー」(バージニア州)というように、KCIAも通称「南山」といわれています。
この映画は史実をベースにしたフィクションです。しかし史実をベースにしているのだから「ノンフィクションの間違いじゃないか?」と疑問に思う人もいるでしょう。
どこまでがフィクションで、どこからがノンフィクションなのか?を理解することが、本作品を理解する最大のポイントになります。
史実とはなにか?
ズバリ「KCIAトップの金載圭(キム ジェギュ)が、韓国の独裁者として18年間君臨していた朴正煕(パクチョンヒ)を殺害した」という部分。
KCIAのトップといえば韓国のNo.2。そのNo.2がなぜ危険を冒してまで独裁者を自らの手で殺さなければならなかったのでしょうか?
ここが重要なポイントです。No.2の金載圭(キム ジェギュ)が、朴正煕(パクチョンヒ)を殺害するまでの背景や、殺害した理由についての解釈の部分が「フィクション」なのです。
背景について何も知らない日本人がここまでの話を聞けば、「No.2がNo.1を殺したということは、それはまさにクーデーターであり、自分がNo.1の座につくための行動だったのでは?」と考えるのが当然でしょう。
しかしそうではない……というのが、「南山の部長たち」の作品を通じて観客に訴えかけたい部分なのです。
革命の裏切者
朴正煕(パクチョンヒ)と金載圭(キム ジェギュ)の関係性は、物語を理解する上で欠かせません。
朴正煕(パクチョンヒ)は1961年のいわゆる「5・16軍事クーデター」により国家再建最高会議議長に就任し、1963年から1979年まで大統領を務めた人物です。そしてNo.2の金載圭(キム ジェギュ)も革命の同志だった……という事実がストーリーをひも解く重要なポイントになります。
そう。二人は「韓国という国をもっとよくする」という志のために革命を起こしたのです。そして経済的には成功を収めました。「漢江の奇跡」といわれる高度経済成長を達成し、韓国は貧乏から抜け出すことに成功したのです。
当時はアメリカとソ連の冷戦時代です。韓国はもちろんアメリカ側です。当時のアメリカは「人権」を重要視する国です。しかし韓国政治の実態は「独裁政治」でした。KCIAという組織は、政権に批判的な人物を探しては拉致し拷問していたため、韓国国民にとっては恐怖の対象となっていたのです。
独裁政治が猛威をふるっている状況下で、発生したのがコリアゲート事件です。
コリアゲート事件とは……韓国人実業家の朴東宣(パク・ドンソン)が韓国中央情報部(KCIA)などと連携し、アメリカ合衆国下院議員への買収工作を行なった事件。買収の動機は、ニクソン政権が示唆した米軍の韓国撤退の阻止。
コリアゲートの捜査にあたっての重要参考人として下院議会聴聞会に呼ばれたのは、KCIAの元部長でありアメリカに亡命していた金炯旭(キム・ヒョンウク)。金炯旭(キム・ヒョンウク)は韓国大統領の朴正煕(パクチョンヒ)を「革命の裏切者」といって批判するのです。
クーデターではない
朴正煕(パクチョンヒ)は国をよくするために革命を起こした。そして金載圭(キム ジェギュ)は、その志を信じて、朴正煕(パクチョンヒ)を守ることに命を懸けるのです。
しかし革命から18年が経過してみると、朴正煕(パクチョンヒ)は裸の王様になっているのです。側近はほぼ全員、イエスマンになっており、政権中枢は現実を直視できず麻痺状態に陥っています。
つまり「朴正煕(パクチョンヒ)の暴走を止めるのは、わたししかいない」というのが、金載圭(キム ジェギュ)が朴正煕(パクチョンヒ)を暗殺した動機である……というのがこの作品でのメッセージです。
別の言い方をするなら、暗殺の動機は「自分が権力を握りたいから」というような私利私欲を満たすためではなかったのです。
金載圭(キム ジェギュ)は革命の裏切者である朴正煕(パクチョンヒ)を暗殺します。その結果どうなったのか?という点については、映画を鑑賞していただくとして、ここで最後に付け加えたいのは革命の意味についてです。
革命の意味
革命をあらわす英単語は「Revolution」ですが、「Re」(再び)+「volution」(巡りきたる)という意味です。つまり過去の良きものに再び出会うための活動が「革命」の本義なのですが、日本では「革命」という言葉の意味が誤解されています。
かつて小泉純一郎は「自民党をぶっ壊す」と叫んで日本の総理大臣の座をつかみ、『小泉革命』という本まで出版されました。
しかし『小泉革命』の結果、「過去の良きもの」に再び出会えた人はいるのでしょうか?
日本では「既得権益」≒「悪」であり「構造改革」≒「善」と条件反射的に判断する人がたくさんいます。とはいえ、社会のほとんどの部分は「既得権益」なのですから、既得権益を片っ端から壊せばいいというのは危険な発想です。
かつて北一輝(戦前の思想家)は、ビジョンのある改革を「維新」、ビジョンなき破壊を「革命」であるとして、「維新」と「革命」を区別しました。日本で「構造改革」を叫ぶ輩は、「革命」がやりたいだけのクラッシャーなのでしょうか?それともビジョンのある「維新」をやりたいのでしょうか?
■ 社会を学べる映画集