ハドソン川の奇跡 ~ Sullyの物語

わたしが好きなサッカーでは、VAR(ビデオアシスタントレフェリー)が導入されたにも関わらず、不可解な判定がなくなりません。

そして今回紹介する作品の主人公も、テクノロジーに人生を壊されそうになります。

予告動画)ハドソン川の奇跡

これ以降の内容は、ネタバレも含みますのでご注意ください。

シミュレーション結果

「ハドソン川の奇跡」は、ニューヨーク発シャーロット経由シアトル行きのUSエアウェイズ1549便が、ニューヨーク市マンハッタン区付近のハドソン川に不時着水した実話をベースにした作品です。

離陸してまもなくして両翼のエンジンが停止するという緊急事態に直面した機長のサリーは、「空港に戻るか」「緊急着陸するか」の2択をせまられ、ハドソン川への緊急着陸を選びます。

緊急着陸に成功した結果、155人の命を救ったサリー機長には賞賛の声が集まるのですが、「空港に戻ろうと思えば戻れたのではないか?」という疑惑が突如として持ち上がるのです。「空港に戻れたのでは?」という疑惑の根拠となったのは『シミュレーション結果』なるものでした。

当時の状況をテクノロジーの力で再現して事後的に検証したところ、「空港に戻ることができた」という検証結果がでたことにより、「サリー機長の判断は間違っていた」と主張する輩がでてくるのです。

テクノロジーが奪うもの

2010年に亡くなった哲学者フィリッパ・ルース・フットが提唱したトロッコ問題は、「道徳心から生まれるジレンマに、人間はどう対処するのか」を見るための倫理学の思考実験です。

線路上を走るトロッコが制御不能になり、そのまま進むと5人の作業員が確実に死ぬ、5人を救うためにポイント(分岐点)を切り替えると1人の作業員が確実に死ぬという状況下で、線路の分岐点に立つ人物(自分)はどう行動すべきかを問うものです。

トロッコ問題はいろいろなところで題材になるのであなたもご存知かもしれませんが、今回は思考実験ではなく現実に起きたという点がポイントになります。

たとえばプロの有名サッカー選手が大舞台でPKを外すことがありますが、ファンの多くは「しょうがない」と感じるでしょう。もし現実に「シミュレーションをしてみたら、あのときPKを決めることはできたはずだ!」と主張すれば笑われるだけです。

しかし「サリー機長の判断は間違っていた」と主張する輩は、大真面目に機長の判断よりもシミュレーション結果を信じているのです。一体、何が起こっているのでしょうか?

共感可能性の剥奪

オンラインの戦争ゲームで敵を殺しても心が痛むことがないのと同様に、テクノロジーはわたしたちから共感能力を奪うのです。テクノロジー自体の良し悪しを議論したいのではなく、不完全な人間たちが用いるテクノロジーが果たす機能が、反人倫的なものになりがちだ……という話をしているのです。

事実、サリー機長の決断と能力を疑う勢力は、「重大局面に直面した人間の心理」なんてものは完全に除外しているのです。それにもかかわらず「シミュレーション」によって、サリー機長の決断の良し悪しを事後的に判断できると疑いもせず、サリー機長を糾弾したのです。

サリー機長は、人生に二度とないような極限の状況で判断を下す必要がありました。判断を下すその瞬間には「シミュレーション結果」はないし、仮にシミュレーション結果があったとしてもそれに従うか決断するのも実行するのも人間である機長の役割なのです。

サリー機長は、パイロット歴40年の自分が下した判断の良し悪しを、事後的なシミュレーション結果によって判断されることに絶望します。果たしてサリー機長の運命はどうなるでしょうか?続きは是非とも作品を鑑賞して確認してみてください。

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