感情とは道具である

勇気スパイラルを回し続けること、つまり『他者貢献』『自己受容』『他者信頼』のレベルを向上させることが重要である……ということは、すでに説明しました。しかしそれだけでは不十分です。勇気スパイラルを回すことが「攻め」なのだとすれば、「守り」も重要になってくるからです。

実際問題、他者と関わるとなると想定通りいくこともあればそうでもないこともあるでしょう。想定通りいかなければネガティブな感情に囚われてしまい、前向きになれないこともあるかもしれません。そこで今回は、勇気スパイラルを回すことを妨げる「感情」に着目したいと思います。

今回の内容は『感情のモデル』の①を理解する上で役立つはずです。

提案)感情のモデル
  • 感情は出し入れ可能な道具なので、感情の出し入れについては、きちんとトレーニングすべし!

感情とは?

「嫌われる勇気」では、感情についての興味深いやり取りがあります。哲人によれば、怒りは出し入れ可能な道具であるというのです。

哲人
哲人

こんな話があります。あるとき、母親と娘が大声をあげて口論していたそうです。すると突然、電話のベルが鳴りました。「もしもし?」。慌てて受話器をとった母親の声には、まだ怒りの感情がこもっています。ところが電話の主は、娘が通う学校の担任教師でした。そうと気づいた途端、母親の声色は丁寧なものに変化します。そのままよそ行きの声で5分ほど会話を交わし、受話器を置きました。と同時に、再び血相を変えて娘に怒鳴りはじめたのです。

青年
青年

別に、よくある話でしょう。

哲人
哲人

わかりませんか?要するに、怒りとは出し入れ可能な「道具」なのです。電話がかかってくれば瞬時に引っ込めることもできるし、電話を切れば再び持ち出すこともできる。この母親は怒りを抑えきれずに怒鳴っているのではありません。ただ大声で娘を威圧するため、それによって自分の主張を押し通すために、怒りの感情を使っているのです。

青年
青年

怒りは、目的を達成するための手段だと?

哲人
哲人

目的論とは、そういうことです。

たとえばある学生の志望校の偏差値が70の場合を考えます。その学生が模擬試験を受験した結果、偏差値が65だったらガッカリするかもしれません。しかしその学生の志望校の偏差値が60であれば、偏差値65という模擬試験の結果は喜ばしいものになるでしょう。

つまり『目的』によって、目の前の現実に直面したときの、行動・認識・感情のすべてが方向づけられる……というのがアドラー心理学の考え方なのですが……ここで厄介な点が一つ。わたしたち一人ひとりは、アドラー心理学における『目的』を、普段の生活のなかであまり意識していないのです。

たとえば嫌われる勇気に登場する青年は、さきほど紹介したやり取りの前に、「喫茶店でコーヒーをこぼされて、服が汚れたので怒鳴ってしまった」というエピソードを紹介しています。さきほどの志望校の話と異なる点は、「喫茶店でコーヒーをこぼされて、服が汚れたので怒鳴ってしまった」という出来事を事前には想定していないという点です。

想定外の出来事に直面した場合には、感情を出し入れ可能な道具として利用するといった心の余裕はなく、感情に振り回されてしまうことがあります。あなたにも同様の経験があるのではないでしょうか?

訓練あるのみ

突発的に「降りかかってくる」感情と、どのようにして付き合えばよいでしょうか?ズバリ……感情を「生理現象」と認識するのがよいと思います。

尿意や便意を感じたとき、あなたはどうするでしょうか?その場で尿や便をするのではなく、ちょっと我慢してトイレにいくと思います。同様に、激しい感情に襲われたときは、その場で感情を吐き出すのではなくちょっと我慢して、適切な時間と場所に移動すればよいのです。

赤ちゃんのことを考えればそのことがよく理解できるはずです。赤ちゃんはトイレに行けないのでオムツをします。3歳頃からトイレトレーニングがはじまり、小学生にもなれば一人でトイレに行けるようになります。

感情についても同様です。感情を吐き出すトレーニングを続ければ、感情を適切な時間と場所で吐き出すことができるようになります。感情を吐き出すスキルが上達すれば、ある日突然降りかかってきた感情に突き動かされて、人間関係を破滅に導く……なんてことも避けることができるはずです。

感情を吐き出すスキルが向上すると、たいていのことには動じなくなります。たとえば自分が交通事故の被害者になっても、頭に血が上り、加害者への怒りに任せて行動するといったことがなくなります。怒りに任せて行動するよりも、冷静になって行動したほうが、自分の得になることが経験上わかっているからです。

さらに感情を吐き出すスキルが向上すると、感情が出し入れ可能な道具であることを理屈ではなく体感として理解できるようになります。すると感情を「エンターテイメント」「人生のスパイス」として味わうことだって出来るようになるはずです。

まとめ

激しい感情は「想定外」の状況に直面したときに、いやおうなしに降りかかってきます。他人と関わる以上は「想定外」をゼロにすることはできません。である以上、ある日突然、激しい感情があなたに降りかかってくることは、もはや避けられないことなのです。

わたしたちにできることは、まずは感情を生理現象として認識し、適切な場所と時間に処理することです。感情処理トレーニングを繰り返すうちに、感情が出し入れ可能な道具であることを実感できるはずです。

そして感情を出し入れ可能な道具として上手に使うことができるようになると、感情を目標達成のための道具として活用できるようになります。たとえば嫉妬の感情を分析することで自分が本当に望んでいるものを探ってみたり、自分が本当に楽しいと思えることを『導きの星』として設定したり……といった具合です。

『感情をコントロールすることが人生を制する』といっても過言ではありません。まずは感情を受け入れて、適切に処理することからはじめてみましょう!

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