あなたのアイデンティティは?

生活世界の空洞化が進行した結果、エリートを信じることができず、なおかつ、自己信頼を育てることも難しいという構造的な問題を抱えている日本社会のなかで、わたしたちは、どう生きていけばよいのでしょうか?

まずは所属集団という社会学の知見について紹介したいと思います。

所属集団

わたしたちには所属集団が3つあります。

第一の帰属は「一次集団」、つまり生まれてから子ども時代にかけて周りにいる近しい人たちで、所属するかどうかを自分では選べない集団のことです。家族や親族など、生活時間や生活空間を全面的に共有する「共同体」のことです。

第二の帰属は「二次集団」、つまり成長して家族離れを遂げたあと、所属するかどうかを自分で選べる集団で、会社や政治党派や宗教団体などのことです。

第三の帰属は「アイデンティティ」、日本で「あなたのアイデンティティは?」と質問すると、家族だ、会社だと答える人が多いですが、これは間違った使い方です。アイデンティティとは、家族を失っても会社がつぶれても「自分は自分だ」といえるような所属とは無関係なコア(尊厳や理念)のことです。

伝統社会では所属を選べる二次集団はほとんどありませんでしたが、近代社会になると所属を選べる集団だらけになります。

そこで「誰が」所属を選んでいるのだ?という問題意識から、役割と分離した主体性つまり「アイデンティティ」の概念が出てきました。

しかし<社会>はそもそも底が抜けており、現代社会は流動性が高すぎるため、「アイデンティティ」すらいつ意味を失ってしまうかわかりません。そのため社会的な成功者であっても、アイデンティティの確立に悩んでしまうケースは珍しくないようです。たとえば……

井上尚弥

日本ボクシング界の「最高傑作」と呼ばれている「井上尚弥」選手をご存知ですか?

わたしは井上尚弥選手の大ファンなのですが、井上尚弥選手は、2022年に4つあるボクシング団体のすべてでバンタム級の王者になりました。

ボクシングの歴史を振り返っても井上尚弥選手を含めて男子では9人しか達成していない快挙です。それにも関わらず、井上尚弥選手は「自分に自信が持てない」のだそうです。

井上尚弥選手からその言葉を聞いた元ボクシング世界王者の京口紘人さんは【こいつは何を言っているんだ】と驚いたそうですが、そういう事例は他にもあります。

進撃の巨人

たとえば「進撃の巨人」という超・有名なマンガ作品の作者、諌山創(いさやまはじめ)さんに、2014年にインタビューした精神科医の斎藤環(さいとうたまき)さんはとても驚いたそうです。

インタビューで諌山創さんは「運が良かっただけ」、「今も自信がない」等と発言し、思春期から続くさまざまなコンプレックスを告白し、「まともな人間にはなれそうもない」という確信や怒りを創作の原動力にしてきたと語ります。

さらに諌山さんは「いつでもネオニートになれる」、「リア充にはならない」、「ももクロは大好きだが会いたくない」等々、ほとんど幸福になることを恐れているのではないかと勘ぐりたくなるような「自信のなさ」だったそうです。

斎藤環さん曰く、社会的地位や成功といった通常であれば自己肯定感を盤石なものにしてくれそうな要因すらも「あてにならないことがある」とのこと。

その理由について斎藤環さんは、「怒りや不安、過度の緊張や気分の落ち込みから自分を守るために、自分を傷つけているのではないか?自分を否定する言葉を自分に投げつけることで、かろうじて自分を保っているのではないか?」と分析しています。

要するに「自分をディスることで自分を守っている」というのが斎藤環先生の見立てなのですが、あなたには心当たりがありませんか?

カルト天国日本

圧倒的な成功を手にした場合であっても、自己肯定感を得るどころか不安に囚われてしまうケースもあるようです。その理由は、<社会>の中に最上位の価値を置いているからです。

もしかしたらあなたもそのことを心の奥底では気づいているからこそ「頑張れない」のではないでしょうか?

<社会>の中での成功を達成しても心の空白を埋められるとは限りません。そしてその空白に、教義的にはガラクタの新興宗教が入り込む余地があるのです。

<社会>ではなく<世界>のなかに、自分をうまく位置づけなおすことができるような知恵を身につけるべきではないか……という問題意識から、これまで『ゴール』や『導きの星』などの概念について紹介してきた経緯があります。

とはいえ、<社会>から<世界へ>と言葉で語りかけることは簡単ですが、日本人は<世界>にひらかれるのが難しいのです。その理由を理解することが、あなたが<世界>にひらかれる可能性を高める鍵になるはずです。

■ 次はコチラ

nihonnjinnha 「日本人はみな身内」という感受性

■ 「世界」記事一覧

sekainosekai 『世界』の世界