前回の講義の最後では、「労働による対価として得られるお金の価値が変動することは(労働者の立場からすれば)望ましくない」という当たり前のことに言及しました。
労働者であれば、1万円の価値は10年後も1万円であってほしいと願うのではないでしょうか?しかし日本政府は、労働の対価として得られるお金の価値を下げることを目標に掲げているのです。
今回は、お金の価値を下げる日本政府(日本銀行)の活動について説明したいと思います。
マネーサプライの創出
日本銀行の役割の一つとして、「マネーサプライの創出」があります。しかしマネーサプライの創出という発想自体が、通貨の価値を危うくさせているのです。
そもそも「マネーサプライの創出」とは何を意味するのでしょうか?
ゼロから説明する必要はありませんね。これまでの講義を受講してきたあなたなら、簡単に理解できるはずです。以前の講義で取り上げた図を再掲します。

上図でいうところの「マネタリーベース」の数字を増やすことを「マネーサプライの創出」といっています。簡単ですね。
マネタリーベースの数字を増やすために、日銀がやっていることも、あなたなら簡単に理解することができるはずです。
そう。日銀がやっていることは、民間銀行から国債を買い取るかわりに、日銀当座預金の数字を増やしているだけなのです。

日銀が2%のインフレ目標を定めたのが2013年1月の金融政策決定会合ですから、もうかれこれ7年以上も(注:本記事の執筆は、2021年12月頃)マネーサプライの創出を頑張っているわけですが、日本はいまだにデフレから脱却できていませんし、わたしたちの生活が良くなっている実感もありません。
その理由は……もうみなさんならわかりますね?そう。日銀がマネーサプライの創出をいくら頑張っても、その結果は「日銀当座預金の数字が積みあがっただけだったから」です。
わたしたちが日銀当座預金を使うことはできませんから、日銀当座預金が積みあがっても、直接われわれ庶民には恩恵がありません。わたしたちの生活に変化があらわれるためには、少なくとも「マネーストック」の数字が上向く必要があります。
当たり前の話ですが……世の中に出回る紙幣・貨幣や、預金などが増加することでようやく一般庶民の生活が改善するのです。
日本銀行がやっていることは、一体何だったのでしょうか?
日本銀行は何ができるの?
日本銀行が国民と直接取引することができない以上、日本銀行ができることといえば、民間銀行にプレッシャーをかけることだけです。日本銀行が民間銀行にどのようにしてプレッシャーをかけるのか整理しておきましょう。
民間銀行は日本国債を保有することで、国債の金利から収入を得ています。民間銀行にとっては、国債を保有することは一番楽に稼げる方法です。つまりマネーサプライの創出のために、日本銀行が民間銀行から国債を引き受ける(購入する)ということは、銀行から安定収益の柱を一本奪うことを意味しているのです。
要するに、日本銀行から民間銀行へのメッセージは「日本国債を保有して金利収入で儲けるのではなく、個人・法人に借金してもらい、その貸付金利で稼ぐのだ!」というシンプルなものです。
しかし賢明なあなたなら、日本銀行が民間銀行にいくらプレッシャーをかけたからといって、マネーストックが増加するわけではないことを理解できるはずです。
マネーストックが増加するためには「誰かが借金する必要がある」のですが、所得も増加しない状況の中、多くの労働者は借金などしたくないと考えるのです。
お金が消える?
このタイミングで「マネタリーベースもマネーストックも、現代社会のお金というものはすべて誰かが借金した時に生まれる」という事実を思い出してください。逆にいえば「誰かが借金返済した時に、お金は消える」のです。(驚きませんか?)
日本国民はかつてたくさん借金をしていました。その代表格は「住宅ローン」です。多くの日本人は高度経済成長時に住宅ローンを組み、その返済のために一心不乱になって働いています。
「とにかく1日でも早く住宅ローンを返済しないといけない」という強迫観念に駆られている人もたくさんいるのが実情だと思います。つまり日本人は頑張ってお金を消しているのです。
少し想像してみてください。住宅ローンを完済し、これから老後に突入する人が、大きな借金をすると思いますか?
少子高齢化の現代において、そして高度経済成長時ほどに明るい夢を描けない現代において、大きな借金をしようとする人はそれほど多くいないでしょう。
世の中からお金が消えたら(マネーストックが減少したら)どうなるでしょうか?
お金が消えたらどうなる?
世の中からお金が消える(マネーストックが減少する)と、お金の存在が希少になり「お金の価値が上がる」ことが理解できると思います。事実、日本はもう30年もデフレに苦しんでいます。
これまでの内容を理解したあなたなら、日本のデフレ脱却が一筋縄ではいかないことが理解できたのではないでしょうか。皮肉にも中央銀行のマネーサプライの創出という考え方こそが、「お金には絶対的な価値などない」ことを証明しているのです。
最後に。「中央銀行(日本は日銀、アメリカはFRB、EUはECB)は国民が労働の対価として受け取る通貨の価値を好き勝手に薄めたり、濃くしたりすることができる権利をもっている」ということだけは覚えておいてください。
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