お父さんに肩車された子どもは、お父さんよりも広い景色を眺めることができます。同様に、抽象的な思考能力に優れた人は、抽象的な思考力に不慣れな人よりも、世の中を少し広く見渡すことができます。
今回の講義では、抽象的な思考力がどのように役立つのか?という点について具体例をいくつかご紹介します。また講義の最後には、誰でもすぐに実践できる抽象的な思考力の鍛え方をご紹介します。
カリスマ所長の誕生秘話
大学を中退し、3人の子育てをしていたある女性は、ある日、子どもから「ブラブラしてないで働いたら?」とアドバイスされました。その女性が44歳のときでした。
時給800円のパート
女性は時給800円のパートとして、ある駅弁屋で働き始めました。働き始めてから8年後、その女性は弁当屋の年間売り上げを5,000万円もアップさせたカリスマ所長として注目されるようになりました。その女性は「三浦 由紀江」さんという方です。(以下、三浦さん)
三浦さんが成果を出したエピソードは数々あるのですが、そのうちの一つをご紹介します。ある日、三浦さんは売れない弁当は「いつも売れ残る」という点に気づきます。
そこで三浦さんは「売れてない弁当は発注を減らして、売れている弁当をもっと発注すること」を提案しました。すると店舗の売り上げが大きく伸びたのです。
「そんなの当たり前でしょ?」とツッコみたくなるようなアイディアだと思います。しかし弁当屋で働いていた人は、その当たり前のことに長い間気づくことができなかったのです。
実はここにポイントがあります。「当たり前でしょ?」と思うようなことですら、わたしたちは気づくことができないのです。逆にいえば、ちょっとの気づきをカタチにするだけで大きな成果に結びつくこともあるのです。
それではちょっとの気づきを得るためにはどうすればいいのでしょうか?答えはカンタンです。抽象度を上げれば自ずと答えが見えてきます。
自分本位からの脱皮
例えばあなたが弁当を売る状況を想像してみてください。店頭で弁当を販売しているとき、ランチタイムの終盤になって人気の弁当が売り切れてしまったとします。
そこに一人のお客さんが駆け込んできて、あなたにこう質問しました。「●●弁当はもう売り切れですか?」と。あなたはどう返答しますか?
弁当屋で働く多くの人が「はい。売り切れです。●●弁当は人気なので早めの来店がおすすめです。」と回答するでしょう。しかし残念ながら、とてつもなく抽象度が低い回答です。
抽象度が低い人は、どこまでいっても「自分本位」なのです。「どの弁当をどれくらいの量つくるかは、わたしたちが決めること。だから文句を言うな。」というスタンスなのです。
自分の店舗のことを中心に考えているから、お客さんの抱えている痛みを問題として捉えることができないのです。一方で抽象度を少しずつ高くすると、他人の気持ちが理解できるようになります。ですから以下のように考えます。
「あの人は仕事が忙しいんだろうな。こんなお昼の終わりになってからしか弁当を買いにこれないのだから。頑張っている人に売れ残りの弁当しか販売できないなんて申し訳ないな。どうにかできないだろうか。」
自分本位な弁当屋と、お客様目線の弁当屋を比べた時、どちらの弁当屋が繁盛するでしょうか?
「自分」という枠から視野を広げるということがまさしく抽象度を上げるということを意味しています。
家族、仲間、貢献したい人、地域社会、日本、アジア、世界という具合に、抽象度を上げれば上げるほど、今まで認識できなかった大いなる価値に気づく可能性が高まるのです。
ある自営業者のエピソード
ある自営業の男性は、「今月末までに10万円用意しないと大変なことになる」と追い込まれていました。「どうにかしないと……短期のアルバイトで日銭を稼ぐしかないのか……」と観念しかけたところに、コンサルタントに相談すると「商品を売りなさい」とアドバイスされます。
しかし男性は反論しました。「アイディアはあるのですが、まだ商品ができていません。商品があったらどんなにいいでしょう。」とうなだれてしまったのです。コンサルタントは続けてこう言いました。
「あなたは固定観念に縛られています。『商品をつくる⇒商品を売る』というパターンはあなたの思い込みでしかありません。あなたには商品アイディアがあります。見込み顧客もいます。要するにあなたには突破口を開くカギをすでに持っているのです。商品を前払いで販売したらどうですか?商品を売ってから商品をつくればいいのではないですか?」
結果的に、男性は心に秘めていたビジネスアイディアを見込み客に提案し、10万円以上の売り上げを数日で確保することができたのです。めでたしめでたし。
以上の話でお伝えしたかったのは、抽象度の高い思考とは「空間軸」だけに限られたものではなく「時間軸」にも応用可能であるということです。
つまり抽象度が低い思考の人は目先のことしか検討することができない一方で、抽象度が高い人は過去、現在、未来に広がっている風景を、今この瞬間に思い描くことができるのです。
冷静になって世の中を見渡してみれば、マクドナルドなどのファストフードや、講演会やセミナーだって前払い制度を導入しています。「いわれてみれば当たり前」の単純なことに気づけるか、気づけないかが命運を分けるのです。
抽象度を高める簡単な方法
今回の講義では事例を3つご紹介しましたが、いかがでしたか?
おそらく『抽象的な思考に習熟したい!』というモチベーションが自然に湧いてきたと思いますので、早速、誰にでも実践できる「抽象度の高め方」をご紹介したいと思います。
関係性を観察する
今あなたの目の前にあるモノの抽象度を高めて立体的に見ることを心がけてください。
例えばわたしは今この講義をパソコンで執筆していますので、パソコンを例に「立体的に見る」ということについて説明します。
例えばパソコンは物理的なモノですが、「時間」、「空間」、「概念」などの軸で、抽象度を高めてみましょう。
- いつまで利用できるのか?
- どうやって処分されるのか?
- 処分される後はどうなるのか?
- どこで購入したのか?
- どこで組み立てられたのか?
- 誰が組み立てたのか?
- 完成までに必要な時間は?
- そもそもパソコンの発明者は?
- メーカーはどこだろう?
- 利益はいくらだろう?
- 世界にある台数はどれくらい?
- 日本でのPC普及率は?
- 世界ではどれぐらい普及している?
- スマートフォンと何が違うの?
- そもそもPCの定義は?
- 消費者が求めているものは?
- ここ数年の売れ筋は?
- ここ数年は進化しているのか? etc
疑問に感じてわからないことは、スマートフォンなどを活用して調査し、記憶に残しておきましょう。
頭のなかでパソコンを想像してください。まずは時間軸を未来に動かしてみましょう。1年後、2年後のパソコンの姿をイメージしてみましょう。今後は逆に、時間軸を過去に動かしてみましょう。過去にパソコンが関わってきたあらゆるものをイメージしてください。
最後に、未来の時間軸でイメージしたもの、過去の時間軸でイメージしたものを、同時にイメージしてみましょう。空間軸や、概念の軸でも同様のことに挑戦してみましょう。
例えばパソコンは企業の視点からすれば「商品」です。パソコンを「商品」として捉えた時にイメージできることを頭に思い浮かべていきます。例えば、売上高、利益率、普及率、メーカーのシェアなどの情報を同時に思い浮かべます。
またパソコンは消費者の視点からすれば「付加価値を生むツール」です。付加価値を生むツールとしてイメージできることを頭に思い浮かべていきます。例えば、文章の執筆、プログラミング、画像の編集などの情報をイメージとして同時に思い浮かべるのです。
手順2でイメージしたことを、すべて同時にイメージしてください。時間軸でイメージした情報、空間軸や概念の軸でもイメージした情報を、すべて同時にイメージするのです。
はじめてトレーニングに取り組んだ方は、なかなか思うようにできないでしょうが、何度も挑戦するうちにきっとできるようになるはずです。
お金の流れを観察する
立体的に見るトレーニングが難しいと感じる方は、「お金の流れ」に注目することをおすすめします。例えば「金は天下の回りモノ」ということわざがありますが、実際のところどのようにしてお金は天下を回っているのでしょうか?
あなたの興味のある業界についてお金の流れを確認してみたり、好感をもっている企業のお金の流れなどを調査してみましょう。きっと新鮮な驚きがあるに違いありません。
例えばわたしたちが支払っている税金は、どこにどれだけ流れているでしょうか?そもそも税金の役割とはなんでしょうか?
またわたしたちの預金は、どのようにして使われているでしょうか?クレジットカード会社は、なぜ無料でカードを送付してきたりアップグレードするのでしょうか?勤め人の給料はどのように決定されるのでしょうか?マイホームの価格は?固定資産税の価格は?……興味をもって少し調べるだけで「世の中はどう回っているのか?」ということについての理解を深めることができ、あなたの視野も広がっていくはずです。
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