ここはしっかり理解してください。他者の期待を満たすように生きること、そして自分の人生を他人任せにすること。これは、自分に嘘をつき、周囲の人々に対しても嘘をつき続ける生き方なのです。
嫌われる勇気
今回は承認欲求の沼(他者の期待を満たすように生きること)から脱皮する女性の成長譚を紹介します。
予告動画)レディ・バード
これ以降の内容は、ネタバレも含みますのでご注意ください。
自伝的映画
映画『レディ・バード』は、女優でもあり脚本家でもあるグレタ・ガーウィグの映画監督としてのデビュー作です。アカデミー賞で監督賞・脚本賞にもノミネートされました。
映画『レディ・バード』の主人公クリスティンは、破天荒な側面をもっています。母親が運転する車のなかで、母親と意見が衝突し口論になった時には、走行中の車から飛び出して腕を骨折するほど破天荒です。
しかし破天荒な行動をする一方で、クリスティンは周りの目を気にしてもいるのです。たとえばすぐにバレる嘘をついたり、自分の環境を卑下する言動をして先手をうつことで、他者からの批判をあらかじめ回避しようとします。
つまりクリスティンは「自分の決断を曲げるつもりは1mmもないのに、反対する周囲にも自分の決断を認めてほしくてたまらない」というジレンマに直面しているのです。
たとえば母親の反対を押し切って「田舎の大学」ではなく、「都会の大学」(ニューヨーク)にいくことにしたのに「母親にも自分の決断を認めてほしい」と喚(わめ)くのです。
課題の分離
冒頭で紹介したアルフレッド・アドラーの思想を紹介した「嫌われる勇気」には、『課題の分離』という概念が紹介されています。課題の分離とは、「その選択によってもたらされる結末を最終的に引き受けるのは誰か?」と考えてみて、他人の課題には過度に干渉せずに、自分の課題に集中するべきという発想です。
映画『レディ・バード』に沿っていえば、「どこの大学にいくか?」という選択はクリスティンの課題である以上、母親に自分の課題の決定権を与えるべきではないという考え方をするのが「課題の分離」の発想です。
逆に母親が、娘であるクリスティンの決断にどのような感情をもったとしても、それはあくまでも「母親の課題」である以上、クリスティンが母親の決断についてコントロールすることはできないのです。
家族だからこそ
「課題の分離」を実践すれば、人間関係のストレスは激減するでしょう。しかしなかなか「課題の分離」を実践するのは難しいのです。いつも近くにいる人間、それが特に自分の子どもだったりする場合には、ついつい世話を焼きたくなってしまうからです。
つまり恋愛関係や夫婦関係の場合には「別れる」という選択肢がありますが、親子関係では原則それができないところに難点があるわけです。優しい親ほど「子どもこそ我が人生」だと考えてしまいがちです。しかも「不妊治療の末にようやく生まれた我が子」であればなおさらです。
どうすれば親子の間で『課題の分離』を実践することができるでしょうか?「嫌われる勇気」にはこんなアドバイスがあります。
むしろ距離の近い家族だからこそ、もっと意識的に課題を分離していく必要があります。
嫌われる勇気
適度な距離
クリスティンは「クリスティン」という名前を受け入れることができません。Christine(クリスティン)という名前は、ラテン語で「キリストに従う者」という意味があるのですが、クリスティン自身はキリスト教にまったく興味がないからです。
そのためクリスティンは、自分で自分につけた名前「レディ・バード」(羽ばたく女性)として生きていくことにするわけですが……興味深いことに……高校を卒業し故郷であるサクラメント(カルフォルニア州)を離れてみてはじめてクリスティンは、自分の名前を受け入れることができたのです。
クリスティンは故郷から物理的に離れてみてはじめて、自分の故郷というものの愛おしさに気づくことができました。とはいえ、必ずしも物理的に遠く離れる必要はないのです。ほんのちょっと離れてみるだけでも効果があります。
象徴的なシーンは、クリスティンが運転免許を取得してはじめて故郷をドライブしている場面です。いつも母に送り迎えしてもらって助手席に座っていたクリスティンが、母親がいつも座っていた運転席に座ってみて、はじめて「母親の視座」で世界を眺めてみたら、そこにはいつもと全く違った世界が広がっていたのです。
キーワードは「名状しがたいもの」
誰もが「名状しがたいもの」に出会い、社会の外にある「世界」に触れ、社会に着地したときには「これまでとは違う自分」を生きるのです。「名状しがたいもの」に出会ったら、もうあなたは元のあなたには戻れないでしょう。
「名状しがたいもの」は、人物かもしれないしモノかもしれないし風景かもしれません。例えば映画「イカとクジラ」では、ニューヨークのアメリカ自然史博物館にあるダイオウイカとマッコウクジラの実物大模型が「名状しがたいもの」でした。
また海洋人間の「八幡暁(やはた さとる)」さんにとっての「名状しがたいもの」は、モリ1本だけもって魚を仕留める凄腕の漁師でした。そしてクリスティンにとっての「名状しがたいもの」は、はじめてドライブしたときに出会った故郷の風景だったのです。
ある日突然降りかかってくる「名状しがたいもの」に、あなたも出会うはずです。その瞬間を楽しみに待ちましょう。
■ 『進化』を学べる映画