今回紹介する映画は、ある日突然旦那が失踪して一人になってしまうというストーリーです。
予告動画)岸辺の旅
これ以降の内容は、ネタバレも含みますのでご注意ください。
岸辺の旅
『岸辺の旅』は「日本映画の王道モチーフ」になっています。「日本映画の王道モチーフ」は「離陸⇒混沌⇒着陸」という流れで構成されています。そして離陸した場所と、着陸した場所が違うところがポイントです。
もし離陸した場所と着陸した場所が一緒であれば「いろいろあったけど秩序は戻った。めでたしめでたし。」で終わります。しかし離陸した場所と着陸した場所が違うので「もう元には戻れない」という感覚に襲われるのが「王道の日本映画」なのです。
「もう元には戻れない」というとネガティブなイメージをもつかもしれません。しかし「もう元には戻れない」≒「気づきを得て成長する」ということでもあります。そのため主人公の気づきを観客が想像することも楽しみの一つになります。
映画「岸辺の旅」に沿っていえば、旦那が失踪して3年が経過し「旦那とわたしとの関係ってなんだったの?」、「なぜ旦那はなにもいわずに失踪したの?」という疑問を解消できずに不全感を抱えている主人公の瑞希(役:深津絵里)のもとに、旦那の優介(役:浅野忠信)がやってきて旅がはじまるわけです。
最大の謎
『岸辺の旅』の最大の謎は、「なぜ3年も経過してから旦那は妻のもとに帰ってきたのか?」というところです。妻のことが大切なのであれば、死んだらすぐに幽霊になって帰ってきてもいいのに、3年も経過してから妻のもとに訪れたのは一体どういった理由からなのでしょうか?
旦那と一緒に旅に出た瑞希は、旅で「混沌」を経験し、旦那が死んですぐに目の前に姿を現さなかった理由を悟ります。旦那はむしろ自分を大事に思っていたからこそ、自分のもとに姿を現さなかった……ということに気づくのです。
3年間旦那は何をしていたのか?それは「自分探しの旅」です。本当は自分は何をしたかった人間なのか?ということを発見し、「本当の自分」を伝える旅に妻を誘うのです。
そして妻は旅を通じて「旦那がどういった人間だったのか?」ということを想像できるようになることで、抱えていた不全感を克服していく……というわけです。
妻が不全感を克服する過程は、妻のピアノのレッスンで表現されています。冒頭のピアノレッスンの場面では「暗いピアノの先生」だったのに、旅をする過程で見違えるように明るくなっていくのです。
本当のことを知りたいか?
『岸辺の旅』でわたしたちは「本当のことが知りたいか?」という問いを突き付けられます。
不全感を抱え続けるのも選択肢の一つです。失踪した旦那とは再会できませんが、「旦那はどこかで生きているかもしれない」という期待を持ち続けることができます。
逆に旦那の安否が明らかになれば、不全感は解消できます。しかし旦那とは再会できない絶望と向き合う必要があるのです。
あなたはどちらを選ぶでしょうか?
『岸辺の旅』からは、たとえつらくても「本当のことを知るべきだ」というメッセージを受け取ります。また黒沢清監督の別の作品たとえば「スパイの妻」でも同じモチーフが反復されています。旦那に騙されてつらい境遇を味わっても、それでも妻は「本当のことが知りたい」と願うのです。
本当のことを知ることは時にツラいことです。そのため権力者は「本当のこと」を隠して、「大丈夫だ」と国民を安心させようとします。嘘にまみれた幻想の世界で一時の安心に浸るか?それとも「本当のこと」から目を背けずに前に進むのか?どちらの選択肢を選ぶのもあなたの意思次第なのです。
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