マックス・ヴェーバーの議論は、多くの人にとって馴染みがなく理解するのが難しいかもしれません。前回までの講義をおさらいしておきましょう。
不安になるのは当然
複雑な社会を営むためには行政官僚制が必要です。しかし行政官僚制に社会が覆われると人は「システム」を頼るようになり、人とのつながりは薄れていきます。そして結果的に、人は損得でしか動機づけられる存在になってしまうのです。
人間は本来、「仲間を助けたいから助ける」、「千万人と雖も吾往かん」(多くの困難がありながらも、敢然としてみずからの道を進もうとする心意気)を実践する『内発的な動機に突き動かされるような存在』だったのに、人間はシステムに依存すればするほどロボットのように感情を失ってしまうのです。
マックス・ヴェーバーは社会がシステムに覆われる状況を「鉄の檻」と表現し、また鉄の檻のなかで内発性が抑圧され、主体性を発揮しにくくなった人間の状態を「没主体化」と表現しました。
鉄の檻のなかで没主体化した存在になることがなぜ問題になるのでしょうか?ズバリその理由は、没主体化すると誰もが不安に苛(さい)まれるようになるだけでなく、内発性という力を失っていくからです。
没主体化は「システムの駒」でしかありません。「システムの駒」であることをやめたくてもそう簡単に「システムの駒」であることをやめることはできません。
事実、行政サービス・会社・あらゆる民間サービスに頼らないことは、誰にとっても現実的ではないはずです。
鉄の檻の完成
現代社会は鉄の檻がほとんど完成した社会です。前回の講義でUberEATSの事例を出したことを覚えていればピンとくるのではないでしょうか?
「おつかい」や「買い物」という家庭内の助け合いでやってきたはずの仕事ですら、UberEATSというシステムに覆われてしまっているのです。
土日の休みにお父さんやお母さんがマクドナルドに並んで自宅に帰り、「マクドナルド買ってきたよぉ~」といいながら子どもの喜ぶ顔を見るチャンス自体が、一部の家庭では消滅しつつあるのです。
別の例を挙げましょう。昭和の時代まで、仲人という婚活マッチング機能がありました。仲人はビジネス的な存在ではなく、人とのつながりで維持されてきた慣習です。
結婚適齢期になった男女が「いつ結婚するの?」と周囲から質問攻めにされるわずらわしさもあったけれど、「お金がなければ相手に巡り合えない」ということもありませんでした。
婚活アプリのすべてを否定したいわけではないのですが、わたしの知り合いで婚活アプリで結婚相手を探し、結婚して1年もたたずに離婚した女性がいました。システムがマッチングした「相性抜群のカップル」が、なぜすぐに離婚するハメになったのでしょうか?
あくまで個人的な意見ですが・・・結婚する前に愛し合ったりケンカしたりという記憶(思い出)や、記憶に結びつく複雑な感情を共有しないまま結婚した夫婦は、お互いが「入れ替え可能」な存在であるため、関係を維持させるのが難しいのではないでしょうか。
鉄の檻のなかで生きる
どうすれば・・・鉄の檻のなかで「じぶんは入れ替え可能な存在」であるという不安に苛(さい)まれることなく、豊かな日常生活を手に入れることができるのでしょうか?
「いい制度」か?
「いい制度」を設計すれば問題は解決する・・・と多くの人は勘違いしています。たしかに「いい制度」が人を救うことはあり得ます。しかし「いい制度」が人を救ったとしても、短期的な解決策にしかならないことは明らかです。
なぜならば・・・「いい制度」こそが「鉄の檻」の正体そのものだからです。
不安に苛まれた人たちに「いい制度」を提供したところで、不安をもたらす「鉄の檻」の範囲が広がるだけなのです。結果として、わたしたちはいつまでも不安から抜け出すことができないのです。
「いい政治家」か?
「いい制度」がダメなら「いい政治家」がわたしたちを救ってくれるのでしょうか?
可能性はゼロではありません。しかしほとんど希望をもつことができません。
なぜならば・・・前回の講義で申し上げたとおり・・・「いい政治家」を輩出するのは「鉄の檻」に囲まれた社会であり、「いい政治家」を見極めるのも「没主体化」して不安に苛(さい)まれた人間たちだからです。
「いいテクノロジー」か?
PayPal(ペイパル)の創業者であるピーター・ティールは、テクノロジーやドラッグ(薬物)が社会の穴を埋めるのだ・・・ということをいっています。しかしそれらが社会の穴を埋めることはないでしょう。
なぜならば・・・人が「いい制度」や「いい政治家」に依存することで、わたしたちが内発性(人とのつながりや感情)を失ったように・・・「いいテクノロジー」や「いいドラッグ」に依存すれば、今度はそれらがわたしたちの内発性を削ぐと予想できるからです。
「いい制度」、「いい政治家」、「いいテクノロジー」にも期待できないとしたら、わたしたちは一体全体どうすればよいのでしょうか?
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