「日本人はみな身内」という感受性

なぜ日本人にとって、<社会>から<世界>へひらかれる感受性をもつことが難しいのでしょうか?

答えは「日本人はみな身内」という感受性から卒業できないからです。詳しく説明します。

森喜朗発言

日本人の「最上位の価値」は戦時中は「天皇陛下」、高度経済成長期は「経済的豊かさ」、1975年以降は「いい学校」へと変化していきました。

所属集団についての知識を得たあなたは不思議に思わないでしょうか?

かつての(人間宣言するまでの)「天皇」は人間ではありません。つまり所属集団でいうなら第一の帰属、第二の帰属、第三の帰属のどれにも当てはまらない存在であり、いうならば『第四の帰属』というべきものです。

つまり(人間宣言するまでの)「天皇」は<社会>的な存在ではなく、<世界>の次元にいた存在です。ここで2つの疑問が生まれます。

1つ目。なぜ明治政府は「天皇」を<世界次元>(≒第四の帰属)の存在にしたのでしょうか?

2つ目。なぜ戦後の日本人は人間宣言をした「天皇」にかわる、<世界次元>(≒第四の帰属)の存在を探さなかったのでしょうか?

村人から近代人へ

江戸時代の「日本」は国民国家ではありませんでした。つまり江戸時代に日本という国民国家は存在しなかったのです。国民国家とはなんでしょうか?

国民国家の成立はナポレオンにさかのぼります。戦争に勝つためには「金のために戦う」傭兵ではなく、「国のために戦う」国民兵の存在が必要とされたのです。

ゼレンスキーが表明したように「我々の国のため、最後まで戦う」というモチベーションが、戦争に嫌々駆り出されるロシア軍兵士のモチベーションを上回っていることからも、国民国家の存在意義は証明されていると思います。

「江戸時代の日本人」には「わたしたちは日本人だ」という意識がありませんでした。「江戸時代の日本人」にとって重要なことは、自分と同じ集団(共同体)に所属している人間の視線であり、所属集団と無関係に他人と知り合えるようなコミュニケーションの伝統はなかったのです。

一方で、そのような伝統をもつのがキリスト教文化圏の国々です。

たとえばG7の中で日本を除いたすべての国(フランス、アメリカ、イギリス、ドイツ、イタリア、カナダ)がキリスト教文化圏であるのは偶然ではありません。

それらの国では、人類史的にはきわめて特殊なキリスト教が浸透していました。だからこそ、同じ共同体に属さない他者たちとルールに沿って共生するという経済社会的なパブリック・マインドの樹立が可能になったという歴史的な背景があります。

そしてパブリック・マインドの樹立が、近代化を可能にしたのです。

パブリック ≠ 滅私奉公

「江戸時代の日本」におけるパブリック・マインドは「滅私奉公」です。つまり会社のために尽くすといったように、「共同体」のために尽くすという意味で理解されていました。

一方で近代社会のパブリックとは、異なる共同体に属する人たち、あるいはどの共同体にも属さない人たちが、お互いに侵害し合わないで共生するための、ルールや想像力の領域のことをいいます。

パブリック概念を樹立させるためには、異なる共同体を上から俯瞰する視点が必要不可欠です。「上から俯瞰する視点」をもたらしたのがキリスト教であるわけですが、日本にはキリスト教があまり普及していませんでした。

そこで明治政府は、キリスト教を熱心に布教する代わりに、近代天皇制を誕生させることにしたのです。つまり「上から俯瞰する視点」をもたらすものが、キリスト教においては『神』である一方で、日本においては『天皇』だったのです。

近代天皇制の誕生

江戸時代までの日本人は、同じムラ的共同体に住まう人々の視線にしか敏感になれませんでした。明治政府は、江戸時代までの日本人を「オラがムラ」的な自意識から無理やり離脱させて、ずっと大きな国民共同体に人為的に所属させ直すことに成功したのです。

たとえば「一君万民」「天皇の赤子」という言葉に象徴されるように、イエやムラにも帰属するけれども国家にも帰属するという形で、大きさの異なる2つの共同体に人々を二重に帰属させたわけです。

その上で、国家こそが一番偉くて、その下にイエやムラがあるというように序列化した結果、キリスト教文化圏と同じように人々は「内≒プライベート」と「外≒パブリック」を手にすることができたのです。

と同時に、キリスト教文化圏には絶対にあり得ないはずの「日本人はみんな身内」といったどこまで広げても共同体的な感受性ができあがってしまいました。

こうして日本人は、身内の視線だけに敏感だという従来からの特性をそのまま温存しつつ、ローカルな共同体の視線による拘束からもそれなりに自由になることができたのです。

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