前回の講義では、「縁起(えんぎ)こそがあなたの人間関係を改善するのみならず、あなたの人生にとってのマスターキーになる」ことをお伝えしました。
「人生のマスターキー」という表現が大げさだと思う人もいるでしょうが、わたしは真剣にそう思っています。
ですから今回からしばらくの間は縁起について講義が続きますが、縁起を理解することの価値は計り知れませんので、途中で挫折しそうになっても絶対に諦めずに「気合い」でついてきてほしいと思っています。
釈迦の教え
「縁起」とは「因縁」ともいいます。いずれも仏教の根本論理なのですが、現代では一般的な言葉になっていますし、無自覚に使われていますが、本来の意味は異なります。
縁起とはまずは「因果」のことです。こんなエピソードがあります。仏教の尊者アッサジは行者サーリプッタに教えを乞われて、釈迦の教えの要旨を語りこう言いました。
もろもろの事がらは原因から生じる。真理の体現者はそれらの原因を説きたもう。
これを聞いた行者サーリプッタは「もしそれだけが釈迦の教えであるとしても、それだけで十分である」と驚嘆して、直ちに仏教に入信したそうです。
あなたは行者サーリプッタのように、素直に「スゴイ!!」と驚嘆できるでしょうか?
おそらくあなたの答えは「ノー」でしょう。「すべての事がらは原因から生じる。因果律は行きわたっている。」といわれても、「は?え?どういうこと?」という気持ちになるはずです。
どのような点がスゴイのかわからないと思うので補足します。実は……「一貫して因果律に立つ」という釈迦の教えは当時の世界では一般的ではなかったのです。
例えばキリスト教では「救われるか救われないかは神の自由意識によって決まる」と理解されています。神は絶対的な存在です。絶対的な存在である神が、人間の祈りによって「この人間を救うか救わないか」を決めるなんてあり得ないと考えるのです。
ですからキリスト教信者は、どれだけ熱心に祈ったとしても救われるとは限らないのです。
現代日本人なら「熱心に祈っても救われないのであれば、神に祈る意味があるのだろうか?」と考えるかもしれませんが、人間が神の判断に影響を与えることはできないと考えるのがキリスト教なのです。むしろ人間が神に影響を与えられないからこそ、神は絶対的なものであり続けるのです。
その一方で仏教においては「救われるか救われないか」という問題は、仏(ほとけ)が決めるものではなく、『すべて本人次第』と考えます。そしてその決まり方は因果律によると考えるのです。
以上、「関係性が存在を生み出す」という縁起の発想には、因果律という発想があるのです。以下の画像をみてください。

画像では人間と人間との関係性が表現されています。しかし人間関係に限らず「この世のあらゆるもの」が、関係性によって存在していると考えるのが縁起思想です。
「関係性によって存在が生まれる」という発想を受け入れれば、「関係性が変われば存在も変わる」ということを理解できるでしょう。
そして「関係性が変われば存在も変わる」のであれば、絶対的なものはこの世に存在せず、すべてのモノは心がつくった幻であることも理解できるでしょう。
つまり今あなたの目の前にあるものが幻であるという実感をもつことが、悟りへの道を開くことにつながっているのです。
とはいえ縁起の思想をすぐに理解して、実生活に応用できる人はほとんどいないと思います。事実、縁起を理解するために昭和の日本人も大変な苦労をしました。
266文字にある世界
「般若心経」(はんにゃしんきょう)には、266文字のなかに仏教の真理が込められているといわれており、百万回唱えればわかるとか、1万回筆写すれば功徳(くどく)があるなどという人がたくさんいました(笑)

【出典:曹洞宗近畿管区教化センター】
しかし仮に百万回唱えたとしても理解できるほど簡単なものではないのです。例えば般若心経には「色即是空、空即是色」(しきそくぜくう、くうそくぜしき)という、よく知られた一句があります。
意味はハッキリしています。「色(しき、物質的現象)は空(くう)であり、すべての色は空から生ずる」という意味です。
しかし何度読み返してみてもよくわからない……のではないでしょうか?
ある人は、「色即是空、空即是色」を”The color is the sky, the sky is the color”と英訳し、あろうことかこの英訳は日本人の間で人気になってしまいました。
しかし残念ながら、そのように単純に訳したところで、わからないものはわからない……という状況からは抜け出せないのです。
そこで縁起を理解する手順を紹介し、その手順に沿ってあなたに「縁起」の思想を解説していこうと思います。
縁起を理解する手順
- 空(小乗仏教)
- 空(大乗仏教)
- 仮観
- 中観
以上が縁起を理解する手順なのですが、「小乗仏教」や「大乗仏教」という用語も一般的ではありませんので、順を追って解説していきたいと思います。
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