前回の講義では、インフレ・デフレの原因が大きく分けて、「国内要因」と「国外要因」の2つであることを明らかにしました。
今回の講義では国内要因(国内のお金の量が足りているか足りていないか)をGDPの概念と絡めて解説するとともに、国外要因(円が他の通貨に比べて高いか安いか)をスタグフレーションの概念とからめて解説したいと思います。
通貨価値と「GDP」の関係
そもそも日本社会全体で必要なお金の量はいくらなのでしょうか?あまりにも多すぎるとお金の希少価値は低くなるし、あまりにも少なすぎるとお金の希少価値は高くなります。お金の量は少なすぎても困るし、多すぎても困るわけです。
一体、日本社会全体でみたときの「適正な」お金の量とはどれくらいなのでしょうか?
実は、GDPについて考えるとその答えがわかります。お金はモノ・サービスを交換する道具としての役割をもっています。ですから必要なお金の量は、モノ・サービスの生産量と連動しているべきなのです。
GDPとは?
モノ・サービスの生産量についての指標として、GDP(国内総生産)があります。GDPとは「国内で新しく生産された商品やサービスの付加価値の総計のこと」です。
「付加価値の総計」といわれてもピンとこないかもしれませんが、例えば小麦を生産する農家が小麦粉を300円で売却するとします。この時、農家が生み出した付加価値が300円です。
そして農家から300円で小麦を仕入れたあるパン工場が、ケーキの下地を生産してケーキ屋に1,000円で販売したとき、パン工場が生み出した付加価値は700円です。(ケーキの下地1,000円-小麦粉300円)
さらにパン工場から下地を仕入れたケーキ屋が、5,000円のショートケーキを消費者に販売したとき、ケーキ屋が生み出した付加価値は4,000円です。(ショートケーキ5,000円-下地1,000円)
さて……付加価値の総量はいくらでしょうか?
農家の生み出した付加価値300円、パン工場が生み出した付加価値700円、ケーキ屋さんが生み出した付加価値4,000円を合計した5,000円が経済活動によって生み出された付加価値になります。
以上のように、日本国内のあらゆる経済活動によって生み出された付加価値の総計がGDPです。ここで質問です。この時必要なお金はいくらでしょうか?
GDP分のお金が必要
さきほどの事例では、地球から生み出された資源があらゆる人の生産活動により、最終的に5,000円のケーキに生まれ変わりました。つまりトータルの付加価値は5,000円です。では5,000円のケーキを購入するためにいくらのお金が必要でしょうか?
答えはカンタンですね。5,000円ですね。そうなのです。GDPの増減によって必要なお金の量は決まるのです。
では5,000円のケーキを購入したいのに、世の中に4,000円しかお金がないとしたらどうでしょうか?
本来5,000円支払わないと購入できなかったケーキが4,000円で購入できるようになるでしょう。つまりお金の購買力が上がったわけですが、この状態を「デフレ」といいます。お金の流通量がGDPよりも少なければデフレになるのです。
逆に世の中に5,000円以上のお金が出回っていれば、お金の価値はモノの価格と比較して相対的に薄まります。お金の購買力が下がった状態を「インフレ」というのでした。要するに、GDP・マネーサプライ・インフレ率の関係をまとめると、以下のようになるわけです。

日本だけではなく、先進国では「デフレは悪」、「インフレは正義」と主張されています。インフレが正義だと主張される理由は、インフレによって国の借金が目減りするからです。
しかし労働者の立場で考えれば、インフレ状態もデフレ状態も、どちらも望ましいことではありません。労働者にとっての理想はインフレにもデフレにもならないことではないでしょうか?
1万円の価値がインフレやデフレによって変動することなく、1年後も5年後も10年後もずっと同じ価値を保ちつづけないと安心して給料をもらえないのではないでしょうか?わたしたちの意志とは無関係にインフレが進行し、銀行預金の価値が勝手に目減りするなんてオカシイと思いませんか?
インフレにもデフレにも変動しない世の中を実現するのは、それほど難しいことではありません。GDPの成長率がプラスになればマネーサプライを増加させ、GDPの成長率がマイナスであればマネーサプライを減少させればいいのです。
要するにGDPとマネーサプライが連動していれば、インフレやデフレにもならない経済が実現できるわけです。

しかし現実社会において、GDPとマネーサプライは連動していません。
GDPとマネーサプライ
日本のGDPは15年間で14%ほど成長しています。

ではマネタリーベースの推移はどうなっているでしょうか?
マネタリーベースは、15年間で約5倍に増加しています。

つまり今の日本は「インフレ状態」だということです。なぜカンタンにインフレ状態になってしまうのか?その理由はGDPが(ほとんど)物理空間の概念である一方で、マネーサプライは(ほとんど)情報空間の概念だからです。
その理由は簡単です。GDPを増加させるためには人間が頑張る必要がある一方で、マネーサプライを増加させるのは簡単だからです。
例えば車を生産するのだって、ゲームのプログラムを記述するのだって人間が汗水たらして働かなければいけません。その一方でマネーサプライという概念は「情報(データ)」であり、わずか数人の意思決定で実行できる代物なのです。
通貨価値と「スタグフレーション」の関係
インフレ・デフレの定義について理解したら、スタグフレーションについても理解することができます。スタグフレーションとは何か?
スタグフレーションは「stagnation(停滞)」と「inflation(インフレーション=物価上昇)」を掛け合わせた造語で、景気後退で失業率が高い中、物価が上昇する状態を意味する。
【引用:ZUU online】
伝統的な経済学において、スタグフレーションは「ありえないこと」とされていました。
なぜならば伝統的な経済学においては、「景気が良くなると、値段が高くても購入するので、商品・サービスの価格は上がる」一方で、「景気が悪くなると、値段が低くないと購入できないので、商品・サービスの価格は下がる」と考えられていたからです。
しかし「景気が良くなれば、商品・サービスの価格は上がる」、「景気が悪くなると、商品・サービスの価格は下がる」というかつて当たり前だった法則は、現代では必ずしも通用しないのです。
あなたはその理由がわかるはずです。そう。国内の景気の良し悪しとは無関係に為替は変動するからです。例えばアメリカの中央銀行(FRB)が「ドルの金利を上げる」ことを匂わせただけで、ドルに注目が集まり、ドルの価格が上がることがあります。
ドルの価格が上がるということは、相対的に円の価格が下がることを意味します。そのため日本のあらゆる輸入品の価格は上がり家計を直撃するのです。
もしかしたら気づいた方もいるかもしれませんが、以上のシナリオは2021年の日本で実際に起こったことです。
残念ながら……わたしたちが労働で稼いだお金の価値は、あらゆる要素によって変動する不確かなものなのです。
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